繰り返す
しばらく誰も喋らなかった。
風の音だけがする。
花びらが静かに舞っている。
最初に口を開いたのは椿希だった。
「じゃあさ」
刀を地面へ置く。
「元の世界に帰れるの」
全員がサクヤヒメを見る。
それが一番気になっていた。
サクヤヒメは頷く。
「帰れます」
空気が少し緩む。
丹奈なんか普通に「あーよかったぁ」と声に出していた。
でも。
「ただし」
全員の顔が固まる。
「亡き色を放置した場合、現世にも影響が出ます」
「影響?」
朝佳が聞く。
サクヤヒメは静かに説明する。
「亡き色は元々、現世で生まれたものです」
「え」
桜子が目を見開く。
「人の感情や未練、苦しみが積み重なり、形を得た存在」
「じゃああれ全部、人間由来ってこと?」
雪羽が少し嫌そうに言う。
「はい」
柳羽が小さく眉を寄せた。
「……だから人の声真似してたんだ」
サクヤヒメは頷く。
「亡き色は人を知っています」
「知りたくない情報きたんだけどぉ」
椿希が顔をしかめる。
紫陽が静かに聞く。
「放置したらどうなるの」
サクヤヒメは巨大な桜を見上げた。
「現世へ溢れます」
静かな声。
でも重かった。
「最初は違和感程度です」
「影が増える」
「悪夢を見る」
「姿を消す者が出る」
桜子の顔色が変わる。
夏祭りの会場。
おばあちゃん達の話。
“攫われた”。
その言葉が頭をよぎる。
「最終的には?」
梅依が聞いた。
サクヤヒメは少し黙る。
「まず町が壊れ、そこを中心に色が無くなっていきます。」
誰も喋れなかった。
冗談っぽく言われない方が怖い。
丹奈がゆっくり起き上がる。
「……いやスケールでかぁ」
「ほんとに中学生がやること?」
朝佳が真顔で言う。
「あたし達に世界救えって?」
椿希も引いていた。
その時。
雪羽がふと辺りを見る。
「てかさ」
全員がそっちを見る。
「ここ時間どうなってるの」
空気が止まる。
桜子もそれ気になっていた。
夏祭りの途中だった。
屋台。
花火。
人混み。
全部途中だった。
「現世と天界では、時間の流れが異なります」
サクヤヒメが答える。
「うわ来た」
椿希が頭を抱える。
「どっち?」
丹奈が聞く。
「こっちが遅い?早い?」
サクヤヒメは少し考えるように目を細めた。
「一定ではありません」
「最悪ぅ」
即答だった。
「数時間しか経っていない場合もあれば」
「数日経過している場合もあります」
「は?!」
桜子が立ち上がる。
「いや待って、普通に親とか心配するでしょ?!」
「行方不明案件じゃん!」
雪羽も叫ぶ。
サクヤヒメは静かに頷いた。
「現世では、“神隠し”として扱われることが多いです」
誰も笑えなかった。
花の庭に風が吹く。
その時。
ふと。
桜子が巨大な桜の根元を見る。
何かあった。
石碑。
古い。
苔むしている。
「……あれ何」
サクヤヒメが視線を向ける。
少しだけ沈黙。
そして。
「以前の花組の名です」
空気が変わった。




