核
「……そこか」
紫陽が鎌を構える。
視線の先。
骸華の胸。
黒い手が絡み合う中心。
そこだけ、花弁の流れが違った。
脈みたいに動いている。
「紫陽?!」
桜子が声を上げる。
でも紫陽は前へ出た。
骸華が反応する。
黒い手が一斉に伸びる。
「行かせるか!」
椿希が飛び込む。
紅黒の刀。
ザンッ!!
黒い手を斬り裂く。
花弁が散る。
でも数が多い。
次から次へ伸びてくる。
「キリない!」
丹奈が大槌を振り下ろす。
ゴッ!!
地面ごと黒い手を叩き潰す。
衝撃で灰色の花弁が吹き上がる。
「紫陽、早く!!」
朝佳の矢が飛ぶ。
橙色の軌道。
骸華の顔へ突き刺さる。
一瞬動きが止まる。
その隙。
白銀のワイヤーが夜空を走った。
「柳羽!」
「任せて!」
雪羽が加速する。
しゅるるるるっ!!
二人が空中を滑る。
骸華の上を通過。
柳羽の薙刀が黒い腕をまとめて薙ぎ払った。
道が開く。
「今!!」
紫陽が走る。
青紫の衣装が翻る。
黒い手が追う。
でも。
水色の鞭が割り込んだ。
ザシュッ!!
蓮唯が黒い手を絡め取り、そのまま引き裂く。
「行って」
短い声。
紫陽は止まらない。
骸華の目の前。
黒い手が壁みたいに立ちはだかる。
「っ……!」
梅依が飛び込んだ。
白梅色の鉤爪。
突き刺す。
裂く。
黒い花弁が吹き上がる。
無理やり道を開ける。
「紫陽!!」
紫陽が踏み込む。
鎌を振り上げる。
骸華の胸。
黒い手の奥。
そこに。
“赤”が見えた。
ほんの少しだけ。
「……!」
人間の心臓みたいに脈打っている。
そこだけ私たちの血のように真っ赤だった。
紫陽は迷わなかった。
鎌を振り下ろす。
ザァッ!!
青紫の花弁が舞う。
次の瞬間。
骸華の身体が止まった。
全部。
黒い手も。
声も。
動きが止まる。
静寂。
そして。
ピシ、と音がした。
骸華の胸から亀裂が広がる。
『ァ』
変な声。
黒い花弁が大量に零れる。
崩れる。
腕。
顔。
身体。
全部。
灰みたいに崩れていく。
『タス……』
最後まで言い切れなかった。
骸華が完全に崩壊する。
黒い花弁が吹雪みたいに夜空へ舞い上がった。
静かだった。
誰もすぐ動けない。
ただ花弁だけが落ちていく。
紫陽が鎌を下ろす。
「……倒した?」
誰かが呟く。
その瞬間。
全員の身体から力が抜けた。
「っ、わ」
桜子が座り込む。
丹奈もその場にしゃがみ込んだ。
「無理無理無理、しんど……」
「最後の化け物すぎ」
雪羽が息を切らす。
柳羽は壁にもたれていた。
肩からまだ赤い花弁が少し零れている。
梅依がそれを見て顔をしかめた。
「それ、ほんと大丈夫?」
「浅いから平気」
でも赤い花弁は止まりきっていなかった。
椿希は刀を下ろしながらサクヤヒメを見る。
「……で?」
少し荒い声。
「これ、あと何回やるわけ」
サクヤヒメは静かに答えた。
「分かりません」
全員が固まる。
「は?」
「亡き色は増え続けています」
静かな声だった。
「あなた達が戦う限り、終わる保証はありません」
誰も喋らなかった。
夏祭りの喧騒はもう聞こえない。
風だけが吹いている。
サクヤヒメがゆっくり振り返る。
「……一度、戻りましょう」
黒い花弁だけが、静かに地面へ積もっていった。




