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花の想ひ出  作者: 栖旅アヲ


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11/22

『タスケテ』


重なった声だった。


子ども。


大人。


男。


女。


ぐちゃぐちゃに混ざっている。


黒い手が顔を覆ったまま、骸華の中から声が漏れる。


『クルシイ』


『イヤダ』


『タスケテ』


「……なにこれ」


朝佳の声が震える。


丹奈も大槌を握ったまま動けない。


「喋ってる……?」


梅依が小さく呟く。


その瞬間。


サクヤヒメが静かに言った。


「惑わされないでください」


全員が振り向く。


「亡き色は、人の未練や感情を取り込みます」


「いやでも今……」


桜子が言いかける。


その時。


骸華の腕が動いた。


速い。


「っ!!」


椿希が咄嗟に刀で受ける。


ガキンッ!!


衝撃。


押される。


「う、ぐ……っ!」


黒い手が増える。


刀を掴む。


腕を掴む。


冷たい。


気持ち悪い。


「椿希!」


桜子が飛び出す。


細剣が走る。


ザッ!!


黒い手を切り裂く。


花弁が舞う。


その隙に椿希が後ろへ飛ぶ。


「はぁ……っ、は……」


呼吸が乱れている。


首筋から、また赤い花弁が零れた。


ぽたり。


「大丈夫?!」


「平気……」


そう言う声が少し掠れていた。


その時。


『イタイ』


また声。


今度は近かった。


梅依のすぐ横。


黒い手が、地面を這っていた。


指先だけで。


『タスケテ』


「っ……!」


梅依が思わず後ずさる。


でも。


その黒い指先に。


ほんの一瞬だけ。


人間の爪が見えた気がした。


「……ほんとに、人がいるの?」


誰かが呟く。


答える者はいない。


その瞬間。


紫陽が前へ出た。


青紫の鎌を静かに構える。


「紫陽?」


桜子が呼ぶ。


紫陽は骸華から目を離さない。


「……違う」


「え?」


「これ、多分」


紫陽が小さく息を吐く。


「“真似してる”だけ」


空気が止まる。


骸華の身体が脈打つ。


黒い花弁が零れる。


『タスケテ』


また声。


でも今度は。


少しだけ不自然だった。


録音みたいに。


同じ高さ。


同じ間。


「……ほんとだ」


菊音が目を細める。


『クルシイ』


『イヤダ』


繰り返す。


何度も。


何度も。


まるで。


人間っぽく見せるために。


「趣味悪……」


丹奈が顔をしかめる。


その瞬間。


骸華の全身が大きく膨らんだ。


「また来る!」


雪羽が叫ぶ。


黒い手が一斉に広がる。


地面。


壁。


空中。


全部から伸びる。


逃げ場がない。


「散開!!」


椿希が叫ぶ。


全員が動く。


ワイヤーが空を走る。


雪羽と柳羽が一気に跳ぶ。


朝佳の矢が飛ぶ。


菊音の扇が舞う。


丹奈の大槌が地面を砕く。


黒い花弁。


赤い花弁。


黄色。


青紫。


色が夜の中でぶつかり合う。


その中央で。


紫陽だけが、骸華を真っ直ぐ見ていた。


そして小さく呟く。


「……そこか」


鎌を握る手に、力が入った。

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