声
『タスケテ』
重なった声だった。
子ども。
大人。
男。
女。
ぐちゃぐちゃに混ざっている。
黒い手が顔を覆ったまま、骸華の中から声が漏れる。
『クルシイ』
『イヤダ』
『タスケテ』
「……なにこれ」
朝佳の声が震える。
丹奈も大槌を握ったまま動けない。
「喋ってる……?」
梅依が小さく呟く。
その瞬間。
サクヤヒメが静かに言った。
「惑わされないでください」
全員が振り向く。
「亡き色は、人の未練や感情を取り込みます」
「いやでも今……」
桜子が言いかける。
その時。
骸華の腕が動いた。
速い。
「っ!!」
椿希が咄嗟に刀で受ける。
ガキンッ!!
衝撃。
押される。
「う、ぐ……っ!」
黒い手が増える。
刀を掴む。
腕を掴む。
冷たい。
気持ち悪い。
「椿希!」
桜子が飛び出す。
細剣が走る。
ザッ!!
黒い手を切り裂く。
花弁が舞う。
その隙に椿希が後ろへ飛ぶ。
「はぁ……っ、は……」
呼吸が乱れている。
首筋から、また赤い花弁が零れた。
ぽたり。
「大丈夫?!」
「平気……」
そう言う声が少し掠れていた。
その時。
『イタイ』
また声。
今度は近かった。
梅依のすぐ横。
黒い手が、地面を這っていた。
指先だけで。
『タスケテ』
「っ……!」
梅依が思わず後ずさる。
でも。
その黒い指先に。
ほんの一瞬だけ。
人間の爪が見えた気がした。
「……ほんとに、人がいるの?」
誰かが呟く。
答える者はいない。
その瞬間。
紫陽が前へ出た。
青紫の鎌を静かに構える。
「紫陽?」
桜子が呼ぶ。
紫陽は骸華から目を離さない。
「……違う」
「え?」
「これ、多分」
紫陽が小さく息を吐く。
「“真似してる”だけ」
空気が止まる。
骸華の身体が脈打つ。
黒い花弁が零れる。
『タスケテ』
また声。
でも今度は。
少しだけ不自然だった。
録音みたいに。
同じ高さ。
同じ間。
「……ほんとだ」
菊音が目を細める。
『クルシイ』
『イヤダ』
繰り返す。
何度も。
何度も。
まるで。
人間っぽく見せるために。
「趣味悪……」
丹奈が顔をしかめる。
その瞬間。
骸華の全身が大きく膨らんだ。
「また来る!」
雪羽が叫ぶ。
黒い手が一斉に広がる。
地面。
壁。
空中。
全部から伸びる。
逃げ場がない。
「散開!!」
椿希が叫ぶ。
全員が動く。
ワイヤーが空を走る。
雪羽と柳羽が一気に跳ぶ。
朝佳の矢が飛ぶ。
菊音の扇が舞う。
丹奈の大槌が地面を砕く。
黒い花弁。
赤い花弁。
黄色。
青紫。
色が夜の中でぶつかり合う。
その中央で。
紫陽だけが、骸華を真っ直ぐ見ていた。
そして小さく呟く。
「……そこか」
鎌を握る手に、力が入った。




