PLAY152 封印された『八神』④
ハンナたちが最下層に向かっているそのころ………。
「ふぅ………。ふぅ………。ふぅ………。ひぃ………」
一人、ゆっくりと且つ地道に足を進めていたディドルイレスは、呼吸を荒くしながら下へ、下へと足を進めていた。竜人族と言えどディドルイレスの人間年齢は六十代前半ほど。体の節々に影響が出始めている時期でもあるので降りる速度はゆっくりだ。
響く痛みに耐え、どんどんなくなっていく体力と、次第に薄くなる呼吸と強くなる追い風に翻弄されながら――ディドルイレスは歩みを進めていく。
――追い風が強くなっている。
――強くなっているということは、あと少しか、もうすぐ………!
ディドルイレスは思う。
風が強くなっているということは、『風』のシルフィードが封印されている場所ももうすぐだと理解したが、同時に感じる肌寒い風も相まって、ディドルイレスは思った。
想定通りだと。
やはり私が考えていたことは当たっていたのだと。
もう遠い話になってしまうが、ここでおさらいをしておこう。
なぜかアズールの王たちは王位継承の道具を――王位継承具を肌身離さずに持たなければいけないのか?
その理由は王がいる場所に関係していることでもあり、実は王位継承具はそのためだけに作られたものと言っても過言ではない。
王と言う存在はその国を守るために君臨している人物であり、王は民のことを考え、そして行動をする者。民達の道標になるべき存在でもあり、国を守るために存在している者でもある。
しかし、たった一人の人物だけで国を守ることができるか?
いいやできない。たとえ竜人族でもあるドラグーン王でも、そのような芸当出来るわけがない。どころかたった一人でできるとなればそれでこそ人ではない。人ではない何かだ。
だが、それでも民を守る役割を担わなければいけない。
そう――国を脅かす脅威から、守るために王位継承具がある。そしてその効力を発揮する時があるのだ。それは……。
『八神』が暴走した時。
王が持つ王位継承具はそれぞれその国に住んでいる『八神』が最も苦手とする八大魔祖の力を有しており、その力を使い、万が一の時に王位継承具を使い、『八神』の力を弱体化、そして封印するために王位継承具があるのだ。
『火』のサラマンダーには『水』の魔祖を持っている『錠海ノ三又槍』を。
『雷』のライジンには『土』の魔祖を持っている『地母神ノ要杖』を。
『水』のリヴァイアサンには『雷』の魔祖を持っている『雷轟ノ鎖銛』を。
『土』のガーディアンには『風』の魔祖を持っている『継ギシ砂ノ枷』を。
最後に明かせる『風』のシルフィードには『氷』の魔祖を持っている『永劫ナル氷菓剣』を。
王は王位継承の儀にも用いられ、そして王としての証となるその武器を手にする理由。それは民のために『八神』の暴走を止め、封印するために彼等はそれを命尽きるまで所持し、そして万が一の時が着た瞬間、その命を削る覚悟で王位継承具を本来の使い方で使う。
それが王が持つ王位継承の道具――王位継承具を使う理由でもあるのだが、それも時代と共に風化してしまい、その事実を知っているのはナム王とドラグーン王しか知らないという結果になってしまっており、誰もがその使い方を知らないまま、王位継承具をただの継承の道具としか使っていない。
『八神』を止めるために使うはずの王位継承具を、『終焉の瘴気』を使って一時的で求めることができたかもしれない。だが、それをしなかったのはただ単に継承されなかった。
だから誰も封印と言うことをしなかった。封印のことを知らなかったがゆえに、その王もその武器を王位継承の証としてだけで肌身離さず持っていた。
それが宝の持ち腐れとなったとしても。
そして現在――ディドルイレスの手元には美しい剣が握られている。
まるで氷の様な透明度であるが、それでは例えられないような代物。ドラグーン王が持っているその剣は、本当に透明な素材で作られたかのような姿をしており、その先の景色が透けているどころか……、ガラスの先を見ているかのような錯覚を思わせる。
鍔と柄は白いそれで統一されているが、刀身だけは透明なそれで、刀身があるのか、ないのかわからないほど、その刀身の透明度は目を凝らさないといけないほど見えない業者。その柄の中央に埋め込まれている緑色の宝石が赤い鱗を持つグワァーダの背の一部を緑色に照らし、その刀身の透明度と緑色の石の煌きによりその美しさをより一層引き立たせる。
元々はドラグーン王が持っていものだが、現在はディドルイレスの手に渡ってしまっている王位継承具。
その剣の名を王は『永劫ナル氷菓剣』
まさに氷ののような透明度と、美しさを持っている剣だ。
――何度見ても美しい剣だ。
そうディドルイレスは剣に視線を移すたびに思ってしまう。そのたびにこの剣が封印に使われているのかと思ってしまうほど、『永劫ナル氷菓剣』は美しく、疑問に思ってしまう代物だった。
攻撃にも適さないような氷でできた剣。
だから封印に適しているのかもしれない。
ほかの王位継承具も攻撃に適さないものもあれば適しているものもあったりするのだ。こんな武器があったとしても不思議ではない。
――封印のために武器。
――これが封印を解放した瞬間、封印されている『八神』はどうなってしまうのか。
――いいや、これさえあればいいのだ。これがあるかぎり『八神』は好き勝手にできない。
――これさえあれば、私は王になれるのだ! 他国の王どもをひれ伏すほどの戦力を手に入れ、この国だけではない! アズールを我が国にすることも可能!
――あの人間族至上主義の国家など小さい小さい。
――これさえあれば! 『風』のシルフィードを操ることができれば! 世界を牛耳ることもできるんだ!
ディドルイレスは思う。
自分が思い描くその先の未来。
世界を自分のものにできるという更なる野望を抱き、思い描きながら重くなりつつある足を進めていく。
神を操る。神を己の戦力にする。国の兵器にする。
果たしてそれができるのか? できないという声が多く出るかもしれないが、ディドルイレスはできると確信していた。
自分の手には王位継承具、『風』のシルフィードを封印している『永劫ナル氷菓剣』があるのだ。
これを使えば何とでもなる。
封印のために使うこれさえあれば、操ることなど至極簡単。
そう――甘い考えを抱いてしまった。
甘すぎる考えが成し遂げられる。そうディドルイレスは錯覚していたのだ。
その錯覚にも気づけないほど、ディドルイレスの視界は目の前しか見えていなかったのかもしれない。
誰もその疑問を否定することなどできない。誰もいないから。ここにフルフィドがいて、それを話していれば、少しは未来が違っていたかもしれない。
その未来も変わらないまま、ディドルイレスは自分にとって都合のいい未来の先へと足を進める。
ゆっくり、呼吸をゆっくりと行い、重い足を動かしながら………。
どのくらい歩いたわからないくらい進んでいくと、どんどんおい加瀬が強くなり、次第に冷たい風に雪のような冷たい感触も加わっていく。
否――本当に追い風の中に雪が混じっているのだ。
吹雪ではないが強い風の中に雪が混じっている。そんな風と雪を感じながらディドルイレスは足を止めず、ゆっくりと足を進め、洞窟の先が見えてきた。
先に見えるのは大きな穴。出口のように楕円状になっている出口で、周りに白い雪が積もっている。そこからひと際強い風と雪がディドルイレスを襲う。
「おぉ………、風の力と封印の力が合わさってできた現象か? おかげでここは寒い………。寒いのと」
と言いながらディドルイレスはここで大きく呼吸を一度行う。
一度吸って、吐いて。
それを行い、僅かだが先ほどよりも空気を取り込んでいない気がする。少しだけ苦しく感じたディドルイレスは、あの時飲んだ薬の効果が薄れていることに気づき、急いで向かおうと休めた足を動かし、強風の追い風と化している空洞へと足を進めた。
吐く息は白くなる。衣服に付着する白い雪と肌を突き刺す冷たい痛み。
足の爪にも白いそれが付着し、結露していくような痛覚を感じてしまう。
――蜥蜴人のように寒さに弱いわけではないが、さすがに堪えるな。
ディドルイレスは寒くなる体をさすりながら歩みを進める。進めて、空洞の中へと足を踏み入れた瞬間、ディドルイレスは声を出してしまった。
「あ、お………おおぉぉおおおおおおおおおっ!」
それは歓喜の叫び。
寒かったからだなどどこへやら、湧き上がる興奮を抑えることを忘れ、視界に広がるそれを見ながらディドルイレス歩む。
積もる雪に足跡を残し、向かい風によって当たってしまう雪をものともしない動きで歩みを進めて――
「こ、これが………、これこそが………! 『風』の『八神』なのか! 生きている間にお目にかかれて光栄だ………!」
『八神』が一体――シルフィードッ!!
ディドルイレスは目の前にあるそれを見ながら歩みを進め、両の腕を広げて叫ぶ。
周りは円状に広がっている空間で、向かい風の影響で積もった雪が別の世界を作り出している。
先ほどの洞窟とは違う――一面雪の世界。
そんな雪の世界の中央に卵型の何かに閉じ込められたそれは、現在進行形で風を巻き起こし、周りの雪を外へとまき散らしている。
まき散らし、風を巻き起こしているそれは、空洞内にあったのは――氷の中に閉じ込められている風の何かだった。
まるで風を妖精の姿にしたような、幼い顔を持った姿。しかも人間の数百倍大きなその存在を氷の卵の中に閉じ込めているのだ。
胎児が母の中ですくすく成長しているような体勢で、死んでいるかのように眠るその姿を見てディドルイレスは歓喜に打ち震える。
今まさに、自分の目の前にあるそれはドラグーン王と鬼の輩が封印していた『八神』が一体――『風』という自然の力を司る神が、自分の目の前で封印されていることを、歓喜として受け入れていた。
これで、ようやく悲願が成就する。
そう心の中で思いながら………。




