PLAY152 封印された『八神』③
「虎次郎さん………、大丈夫かな?」
「師匠なら大丈夫よ。あんたも知ってるでしょ?」
「わかっているけど、それでも心配にならない?」
「…………………………」
「あ………。ごめん」
虎次郎さんに任せた私たちは今、『八神』が一体、『風』のシルフィードが封印されている場所に向かっていた。
私とヘルナイトさん、シェーラちゃんにキョウヤさん、アキにぃに、アオハさんという少しだけチームが変わった私たち六人は今、封印されている『風獣の神殿』の最深部………心臓部ってアオハさんは言っていた。けど、その場所に向かって走っている。
私は………、ヘルナイトさんにお姫様抱っこされているけど。
そんな状態で私たちは心臓部に向かい、虎次郎さんが敵に立ち向かってくれている間に足を動かして進んでいる。その時に私は虎次郎さんは大丈夫なのかと思い口走った結果が今の会話。
一人で大丈夫なのか。それは本当に心配していたし、心配じゃないと言われたら嘘になってしまう。
仲間なんだし、それに………虎次郎さんは刀を使うすごい人だけど、相手がもしそれ以上に強い人だったらと思うと、心配になってしまう。
信頼はしているけど………、心配しないのは違う。
それをシェーラちゃんに言うと、シェーラちゃんも心配だったみたいだ。当たり前だけど………、ずっと探していたお師匠で、やっと再会できたんだもの。心配しないなんておかしいことだ。いくら強くても、心配しない人なんているわけない。
私………、意地悪しちゃったな。ごめんね――シェーラちゃん。
「心配になるのはわかるけどよ――あのおっさんだぞ? そうそう死ぬ想像できるか? シェーラ」
そんな時に後ろを走っていたキョウヤさんがシェーラちゃんに声をかけてきて、その言葉を聞いてシェーラちゃんは想像しているみたい。考えるように顎に手を添えて考えている。私もヘルナイトさんの腕の中で考える。
虎次郎さんが死ぬ想像………。あまり考えたくないけど、想像して、想像して………。
して………。
「………できないです」
「できないね。だって死にかけても『いやはや死にかけた。死ぬ感覚というのはこういうことなのか』って大笑いしそう」
「考えるのは失礼かもしれないが、そんな想像できないな」
「師匠の死を想像する前に、師匠がひょっこり現れて頭搔きながら『いやはや死に損なったぞ。まだまだ儂は長生きできるな』って胸張って言いそう」
「だろ?」
心配だったそれはどこへやら。
キョウヤさんに言われた通り想像してみると、全然想像できないことに驚いてしまい、驚きの顔をしてキョウヤさんやみんなに言うと、みんなも思っていたみたいだ。ヘルナイトさんも想像していたことに驚きだったけど、アキにぃやシェーラちゃんの言葉を聞いて想像通りの言葉が返ってきそうで去らぬ驚いてしまう。
そんな私たちの会話を聞いていたアオハさんは呆れた声で「何しているんだ? こんな時に」と叱られてしまったけど、そんな彼の言葉をスルーしてキョウヤさんはシェーラちゃんや私たちに言う。
「あのおっさんがあっという間に死ぬなんて想像できねぇだろ? てか今までだって逆境乗り越えてきたんだ。オレも意外とやばい時もあったし、みんなやばい時があったけど、結果的にここまで頑張ってこれた。乗り越えてきたんだ。きっと今回も――うまくいくだろ。信じろって」
みんな協力してくれている。オレたちだけじゃないから。
キョウヤさんは言う。
確かにその通りだ。
今までの戦いの中で、私たちはいろんな人たちに助けられてきた。
みんなみんな、目的は『出たい』からだけど、それでも私たちに協力して、命を懸けてくれている。預けてくれている。
死ぬわけにはいかない。その想いを胸に、私たちに背中を預けているんだ。
そう思っていなくても、虎次郎さんはきっと何とかしてくれる。自分から殿を志願したんだから、あとを任せてしまうかもしれないがいいかって聞いてきたんだもの。
私たちも、虎次郎さんのことを信じよう。
キョウヤさんの言葉を聞いて私は頷き、シェーラちゃんも「そうね」と安心したもしゃもしゃを出しながら言って、ヘルナイトさんも頷く。
「仲が良くていいな。お前たちは」
「おいおい。いい雰囲気の時にそんなこと言うなって。てかあんたが言うセリフじゃないと思うけど」
「そんなの関係ないだろう。お前たちは『冒険者』なんだろう? 金のためにここまで来ているくせに、どうしてそこまでこの国にこだわるのかわからない」
私たちが虎次郎さんに対して信じる意思を固めたとき、後ろで走っていたアオハさんは声をかけてきて、それを聞いたアキにぃは振り向きながらアオハさんに言うと、アオハさんは再度呆れた溜息を吐いて私たちに言う。
どうしてなんだ? それを追求して。
「お前たち冒険者は『一攫千金』のために冒険者になっているんだろう? 金のためならなんだってする用心棒もいる。傭兵になるやつだっている。今回の『浄化』も金のためなんだろう? 薄汚れた思考回路を美談にしてもみ消そうとするのは、感心しない」
「いや俺たちそんな気持ちでやってない! むしろ善意だけで行動しているだけだ! ………してるだけ」
「気持ちはわかるが、そこは断言してくれよ」
アオハさんの言葉を聞いてアキにぃが反論するけど、その反論もどんどん小さくなって、心なしか体も小さくなってしまったかのように縮こまってしまう。
アキにぃの悲しい姿を見てキョウヤさんが一喝入れる。本当に断言してほしいことを促して。
でも、私もアキにぃの気持ちわからなくもないし、一理あるところもある。
私たちは冒険者で、ゲームだったときは本当にお金とかその時の報酬目当てに行動していたところもある。そして私たちはここまで必死になる理由も、このゲームから出たいという気持ちがある。
きっと、大半がそう思っているだろうけど、私は、違う。
最初は出ようと思っていた気持ちも、今は変わっている自分がいて、そんな自分を受け入れて、頑張っている自分がいる。
それをアオハさんに言いたかった私は、横抱きにされている状態からヘルナイトさんの肩越しから顔を出すような大勢になってアオハさんに告げる。
「私は違います」
そう最初に告げてから、続けて驚いているアオハさんに向けて言った。
走っている足を止めてしまうほど、聞き入るその目を見て。止まっているみんなのことを見ないで私は言う。
「お金とか、名誉とか、そんなのどうでもいい。私はこの国を何とかしたい。できることをして、みんな幸せに暮らしていける世界になってくれることを願って、自分にできることをやっているだけです」
「は? 金も………、何も要らない?」
アオハさんの言葉を聞いて私は頷く。
「金のためではない。自分たちに利益なんてないにもかかわらずこの国のために命を懸けてくれる。ありがたいことだが、お前たちは冒険者で部外者だ。そんな奴のいうことなんて、信用できない」
「信用できないのはわかります。裏切られたことも、狙われたことも知っているし、鬼族の歴史も少しだけど聞きました。聞いたからこそ、私は………、私たちは手を差し伸べたいんです」
頷いて、顔をしかめて呆れる彼のことを恐れず、堂々………としていたと思う。そんな顔で私は言った。言ってやった。
「部外者と言われても引きません。なんと言われようともこの意思に偽りもなければ変えません。選ばれたからっていう理由でやっているわけじゃない。私自身の意思で、この国をどうにかしたいって、絶対に思ったから」
どんな運命になろうとも、この国を助けたい気持ちになったと思います。
そう断言した言葉をアオハさんに向ける。
向けられたアオハさんは驚きの顔をしていた。固まったまま私のことを見て、みんなのことを見ている。足を止めていることなんて気にしないほど、私はアオハさんの次の言葉を待って、何を言ってももう一度言うつもりで身構える。
最初は『ここから出たい』という気持ちも、今は変わっている。
ゲームを楽しんでいるんじゃなくて、一刻も早くここから出て現実に戻りたい気持ちじゃなくて。
純粋に。まっすぐな気持ちで――この国を救けたいという意思を持って、今ここにいることを。
「………あいつが言っていることが当たっていたとはな」
「?」
アオハさんが突然小さな声で何かを言っていたけれど、いったい何を言っているのか聞き取れずに首をかしげてしまう。かしげて、アオハさんのことを見ると、アオハさんは足を動かし、私たちの横を通り過ぎて、みんなの横を通り過ぎると、一番前に立って振り向き、呆れるように溜息を吐くと――アオハさんは私たちに言う。
「何してる」と最初に言って、続けて私たちに向けて告げる。
「行くんだろう? 最深部はこの先だ。あと少しだから走れ」
それだけ言って走ってしまうアオハさん。
アオハさんを見てアキにぃはひきつる顔を浮かべたまま固まっていたけど、すぐに意識を戻して『おい待てやこらぁ!』と汚い言葉を吐きながら走り出してしまい、それを見てシェーラちゃんとキョウヤさんも走り出す。
みんな止まっていた時間を挽回するように駆け出してしまい、それを振り向きながら見ていた私は驚きながら固まっていたけれど、それを見ていたヘルナイトさんは私の名前を呼んで、凛とした声で言う。
私の顔を見て、みんなが走って行ってしまった方角に視線を向けて――
「行こう。言質をとらないと」
言質。
つまり………証拠ってことだよね?
私が言った言葉を証明しないといけないってこと、だよね? ヘルナイトさんが言っていることは。
そんなの、言われなくてもすることで、わかっていることだから、私は控えめに微笑んで、頷いて――
「はい。行きましょう――シルフィードの『浄化』」
と言うと、それを聞いてヘルナイトさんは頷き、みんなの後を追うように走り出す。
この先に何があるのかなんてわかっていること。この先にいるシルフィードを『浄化』して、この国を『終焉の瘴気』が蔓延する前の状態に戻す。
私にできることはこれしかない。私にできることは『浄化』しかできないけど、できる限りのことをする。それを胸に私はヘルナイトさんの腕の中で『風獣の神殿』の最奥を見つめる。
少しずつなのかな………? 心なしか、空気が薄く感じる。それを感じながらも私たちは駆け出す。
大臣が向かうその場所――『八神』が一体で、『風』のシルフィードのもとへ!




