PLAY151 悪魔の心、抉れる③
ショーマの触手の薙ぐ攻撃も槍の刺突だけでぶつ切りにし、距離を取りながら攻撃し、躱し続ける。
稼いで、むぃの詠唱が終わるまで時間を稼ぐ。稼いで、稼いで、稼ぎまくって、無傷のままデュランはショーマの攻撃を避けて、邪魔な触手の攻撃を薙いで切り刻む。
攻防を繰り返しているが、決定的な隙は生まれない。
体を傷ついてもショーマは悪魔族。傷をつけてもその体を犠牲にして逆に隙を産もうとするだろう。
隙が生まれれば、逆に奇襲できるその時を待ちながら、デュランは攻撃を躱し、薙いでショーマの攻撃を斬る。
そして――
と言うところで、デュランは気付く。
――ん? これは。
今までむぃの詠唱が終わるまで行動していたが、何かがおかしい。
いいや、これは記憶にある光景だ。
記憶にあった光景をなぜもう一度体験しているんだ?
まるで追体験をしているかのよう………。
と思ったところで、デュランは気付く。
これは追体験ではない。これは、繰り返しているのだと。
デュランはむぃのことを視界の端で見る。顔はないが視界の端で見ていることを察したのか、むぃは人馬の背にしがみついた状態で猫の指を立てて、グーサインを出しながらむぃは言った。
「デュランさん! 今です!」
むぃの言葉を聞いてデュランは自分が理解した結果が本当であることを認識し、内心――そう言う事かと思いながらデュランは目の前を見る。
目の前で攻撃を繰り出そうとしているショーマは、触手を使ってデュランのことを六方の一斉攻撃を繰り出す。
一瞬目の前に迫って来た六つの触手。それがデュランの目の前に迫り、それが顔面に当たる――六秒前。
その未来は分かっている。
繰り出そうとする未来は分かっているから、それが来る前に――行動するだけ。
デュランはそれが来る前に馬の蹄を『ガツン! ガツン!』と二回鳴らし、その音と同時に迸る小さな火花が消える前に、デュランは言う。
息を吸い、気持ちを風のない海のように落ち着きながら。
「――『無音の一歩』」
その言葉が終わると同時に、ショーマの視界からデュランが消えた。
音もなく、その場から消えたことで悪魔族のショーマは驚きながら周りを見る。
勿論攻撃するそれを忘れて、どこにいるのか周りを見て探す光景は、はたから見れば滑稽だろう。だが当人からすれば一大事だ。
なにせ、音もなく消えたのだ。
消えたことで一体どこにいるのか探さないといけないのだ。
倒さないといけないから。探して、殺さないといけない。そう思っているのだろう。
そう想像して、デュランは攻撃を繰り出す。
いつぞやか、ショーマ達を助けるために繰り出したその攻撃を、ショーマとショーマの背中の触手に向けて、デュランは音もなく繰り出す。
デュランが得意とする――無音の攻撃。
「――『無音の一閃』」
デュランの声が聞こえる。その声が聞こえた瞬間、ショーマの触手が一瞬で細切れになり、ショーマの胴体にそれがめり込むように繰り出され、威力に耐える間もなく、ショーマはデュランの攻撃を胴体で受けて、そのまま壁に向かって飛ばされ、壁に激突する前に地面に頭から突っ込む。
否――頭上にたたきつけられたそれを受けてしまい、そのまま突っ伏するように地面にたたきつけられたのだ。
音のない攻撃。
人がいないその攻撃を受けてしまい、ショーマは地面に突っ込んだまま意識を手放す。手放したと同時に背中から出ていた黒いそれが黒い塵となって消えて、彼に浮かび上がっていたであろう黒い刺青も消えていく。
黒い肌から普段の刺青がある普通の肌に変わり、何もかもがショーマの姿に戻りつつある。
その光景を見ながらデュランは人馬の蹄を地面に向けて踏みつけ、『ガツン!』と鳴らしながらむぃに向けて言った。
「すまないなむぃ。助かった」
「むぃ、多分『詠唱』使わなくてもよかったのでは? それあれば普通に奇襲出来た気がします」
驚き顔で、且つデュランのことを見上げて『思い出した。こいつは『12鬼士』だった』と言う顔をしているむぃのことを見ずに、デュランは「いいや」と言いながら続けて言う。
「我の『詠唱』でも、あの触手は邪魔だった。あれがあれば『無音の一歩』を使ったとしても、補う様に攻撃を繰り出していただろう。だから、向かってきたその時に、攻撃が来る前に決着をつけたかった。攻撃手段が分かっていたから使えたんだ」
何も無駄だったわけじゃない。
そうデュランがむぃに言うと、むぃは腑に落ちないような顔をしながら唸り、デュランを見て『やっぱり』と言わんばかりにむぃは言う。
「そうは言われましても、結局その詠唱を使えば奇襲もできました。むぃの詠唱は見せびらかしにしか感じられませんでしたよ」
「むぃ。忘れていないか? たとえ詠唱が使えたとしても、『詠唱』の回数は一回。今この時間に、一分前に戻ったとしても――一回『詠唱』を使ってしまったとカウントされる」
「あ」
「使わなかった時間に戻り、もう一度使えるとなればそれは『特殊』に分類されていただろうが、そんな都合のいいことなどありえない。使ってしまった『詠唱』は戻らない。それは我の『詠唱』も同じだ」
だから――むやみやたらに使わなかったんだ。
デュランの言葉はもっともだ。
現に、むぃの詠唱はもう使えないことはむぃ自身わかっていた。わかっていたから、デュランはむぃの『詠唱』の詳細を知るまで使わなかった。もし時間を戻す系の力でなかったら、結果は違っていたかもしれない。
違う未来を想定しての行動。
むぃはデュランの言葉を聞き、自分もむやみやたらに使わないようにしよう。と心に決めた瞬間だった。同時に――
「う」
地面にたたきつけられたショーマの声が聞こえた。
「「!」」
ショーマの声を聞いてデュランはむぃを乗せたまま駆け寄り、普段通りに冷静なそれで「大丈夫か?」とショーマの服を掴み、そのまま地面からひっぺ剥して座らせる。
体が動けないのか、されるがままになっていたショーマは尻餅をつくように座り、俯いたまま黙ってしまう。座っているので意識は戻っているのだが、言葉を発しない。
それを見ていたデュランはショーマのことを見ながらむぃのことを視界の端で見て、むぃも見えないデュランの頭がこっちを見ていることを理解した後、人馬の背からショーマのことを見てショーマの名を呼ぶが、ショーマは何も言わない。
言わないどころか、顔を上げない。
そんな彼のことを見ながら二人は頷き合い (デュランは肩が僅かに揺れたので頷いているとむぃは理解した)、その場にしゃがんでショーマの顔を覗き込む。
因みに、アシバは気絶したままの状態で俵抱きのままになっている。
当分は起きないだろう。そう思ったデュランはアシバのことを視界の端で見つつ、ショーマのことを見ながら「そう言えば、こいつのことだが」と、少し言葉を選びながらショーマに言う。
「こいつはきっと、この国を滅ぼそうとしている存在の一人だったのかもしれない。何かが絡んでいることは間違いない。そして魔王族をも一瞬で動けなくする何かを持っている存在だ。きっと野放しにしないように『永久監獄』行きになる。いいや確実になる」
「お前は、こいつに色んな感情を抱いているだろう。悔しさや悲しみ、特に………怒りを強く抱いただろう。あんな風になってしまうのも無理はない。無理はないが、今は………………………」
と言いかけたところで、デュランは気付いてしまう。
いつからだろうか、ショーマは顔を上げていた。顔を上げて、むぃとデュランのことを見ていたのだが、その顔を見た瞬間、二人の顔に絶句と言う名の強張りが現れてしまう。
ショーマの顔を見て、見たことのないショーマの絶望の顔を見て、言葉を失ってしまったから。
何も言わず、デュランの傷やむぃを見て、俵抱きにされているアシバを見て、ショーマは何も言わず、ただただじっと………否、ただただ無言の、絶望を顔に出していた。
まるで――自分がしたことを今思い出したかのような、そんな顔だ。
それを見て、デュランは全てを察してショーマの肩に手を置く。とんっと優しく手を置き、とある言葉をショーマに投げ掛ける。
「お前は悪くない。何も――悪くない」
全部、お前の意思じゃないだろう。
そう言いながら肩に置いた手を頭に乗せ、その頭をポンポン叩きながら宥めるデュラン。
叩かれている本人は言葉を発さないまま、じっと自分の足を見下ろしている。どこを見ているのか、虚無を見つめているようなその目を見て、耐えられなかったむぃは人馬の背から降りてショーマの腕に抱き着く。
ぎゅっと抱きしめて――「ショーマさんは何も悪くない! 悪いのはお友達を傷つけたこの人です! ショーマさんは、ショーマさんは………」と言いながら泣いてしまうむぃ。
そんなむぃの頭を撫でながらデュランは遠くから聞こえるツグミ達の声を聞き、ツグミ達に自分達がいる場所を大きな声で伝える。
本当であれば、ここで起き上がったショーマが普段通りの会話をすると思っていた。
だがそれはなく、ショーマは絶望の目をしたまま言葉を発しない。
自分がしたことを責めているようなその目を見て、どんな言葉を掛ければいいのか、どうすれば元のショーマに戻れるのか、このままずっとなのか。そんな心配と不安が押し寄せてきたデュランは暗い岩の天井しかないそれを見上げて思った。
見つからない答えを見つけてほしい。
そんな叶わない思いを込めて。
――お前なら、どうするんだ? ヘルナイト。
――『12鬼士』の団長として、教えてくれ。
◆ ◆
ショーマチーム対アシバ。
ショーマチームの勝利 (ショーマの神力――マイナス値到達。デュラン以外の神力三桁まで減少)




