PLAY151 悪魔の心、抉れる②
デュランが繰り出す刺突を見ても、悪魔族のショーマは動じることはなく、むしろそれを受け止めるかのように足腰に力を入れ、そのまま――刺突を胴体で受け止める。
勿論触手の防御なんてしない。しなくてもいい事をして何になるのか。と言わんばかりにショーマはそれを受け止め、貫通したその槍を、自身の手で掴み、放さないと言わんばかりに握って体を少しだけ丸める。
――そうだよな。お前は悪魔族。そしてお前のことだ。
――防御は己の体で行う。そして隙を作る。お前がしそうなことだ。
僅かに見えたショーマの面影。片鱗を垣間見たデュランは心の中でまだショーマが残っていることを理解し、安堵のそれを吐きそうになったが、寸前のところで堪えてショーマを見る。
彼が敵にそれを行うということは、隙を作るということは――次の一手がアレだということを示唆していたから。
ショーマが自分を犠牲にして止める行動=次は確実に………。
攻撃!
それを理解しているデュラン達だからわかっていた。ショーマのこの行動を知っているから、次の一手が触手の攻撃で、それが上から来ることも、消去法で分かっていた。
いいや――わざわざ消去法で行わなくても分かってしまうくらい音が聞こえた。上から触手特有の引き摺る音が聞こえ、這うように上に向かっていたことが分かる音を聞いたデュランは、上から急降下してきた触手が直撃する寸前のところで避けた。
音もなく、無音で避けて。
聞こえた音は触手の直撃の音。
後は何も聞こえない。
「?」
聞こえない断末魔に首を傾げた悪魔族のショーマ。胴体にはまだ槍が突き刺さっている状態で、それを押さえた状態で辺りを見渡すが、誰もいない。どこにも人がいない。
一体どこに隠れたのか。
周りを見渡しながらショーマはデュランを探す。
右を見てもいない。左を見てもいない。前を見てもいない。後ろを見てもいない。上を見てもいない。
右斜め上を見てもいない。右斜め下を見てもいない。左斜め下を見てもいない。左斜め上を見てもいない。またもう一度右を見ても――
と右を見た瞬間だった。胴体に感じる感触。
それは痛みと動かされる体の中の感覚。
嫌な感触と言ってもおかしくないそれを感じたショーマはすぐに正面の、胴体の方を見ようとしたが、その前に突き刺さっていたそれが勢いよく引き抜かれ、左頬に繰り出される衝撃。
それを受けたショーマは勢いに負けて右に吹き飛ばされ、地面に直撃したかと思えばそのまま二回、三回と宙が回り、岩の壁に激突する。
強い衝撃の音が辺りに響き、大きな揺れを感じたエド達とヌィビット、そして負けたロゼロとラージェンラ、コウガを担いでいたツグミは揺れの根源を探すように辺りを見渡すが、どこにもその衝撃の根源はない。
遠くから? そうラージェンラは思い。
何がぶつかった音なんだ? そうヌィビットは思い。
どこかで戦っている? そうエドは思い。
似ているな。俺と同じ………。そうロゼロは思い。
「ショーマ………デュラン………。マジで大丈夫なんだよね?」
ツグミはコウガを肩で担ぎながら呟く。
本当にショーマを元に戻すことができるのか。そんな不安を抱きながら、声に出してはいけないことを言葉にして出してしまっていた。
本来ならこんなこと思わないこと。だがショーマはおかしくなってしまったことで、ツグミの心にも怯えが生じ始めていた。
戦いの場面で言うと、神力が下がっている。
精神的に脆くなりかけているということだ。
――もし、ショーマがあのまま。
そんな想像したくないことを想像してしまうツグミを見て、未だに体の痺れが取れていないコウガは呆れるような溜息を吐いて………。
「おいおい………。お前、それでもあいつの友達なのか?」
と、呆れるような音色で聞くと、それを聞いたツグミはコウガのことを見て怒りをぶつけようとしたが、一旦考えるように黙り、そのまま俯いてツグミは言う。
か細く、小さい声で………。
「自分でも、正直、驚いています」
「ああ。そう………かい」
「だって、あんな風になったことなんて、一度もないし、いつものショーマじゃないあれを見て、もしかしたらとか思っちゃうじゃないですか」
「分かる………。わかるけどよ」
ツグミの本音を聞いてコウガは溜息を吐きながら言う。
正直、溜息ですら痛いと思ってしまうくらいアシバが使った攻撃は強力だ。
魔王族のデュラン、上森人のツグミ、悪魔族のショーマは時間の経過と共に動けるようになっているが、人間族のコウガはまだ体から悲鳴が聞こえる。まだ毒が取れていない証拠であり、人間族の体にこの毒は異常なほど苦しい事が分かる。
今もツグミの肩を借りないといけないくらい体は自由に動けない。
動けないからこそコウガはツグミの肩を借りつつ、ツグミの言葉を聞きながら彼は言う。
「お前が信じていないと、戻った時、あいつはどんな顔をすると思う? 想像できないか?」
「………多分、ていうか絶対に泣き出します」
「そうだ。『お前なんで俺が戻らないことを想像してんだよバカヤロー』って言うに違いない。その顔を想像してみろ?」
「滅茶苦茶むかつきます」
「お前の想像に任せるが、そんなむかつく顔をお前の目の前で晒されたら、たまったもんじゃないだろ? それに、お前とあいつの中だ。信じないなんて今更じゃねーか?」
それは、そう思う。
痺れる体に鞭を打ち、ツグミの肩を借りながら歩くコウガを見て、ツグミは目を見開き、すぐに平静を取り戻した顔をして前を見る。
先程見せていた不安のそれは少しだけ取り除かれたが、まだ不安はある。でも見せない意志が見えているその顔をコウガに見せながらツグミは言った。
そうだ、今更だ。
コウガさんの言う通りだ。そう思いながらツグミは言う。
「そうですよね。今更ですよね。あいつはあいつ。きっと何食わぬ顔してデュランさんの背中に乗って帰ってくる。それを見たらすぐに殴ろうと思います。色々と迷惑を不安を煽った代償として」
「………こわ。代償もえぐいな」
借金取りも震え上がるな。
そう思いながらコウガとツグミはショーマとデュランが向かった先に向かって、しっかりと一歩を踏み込んで歩みを進める。
未だに収まらない揺れを感じながら、ゆっくりと。
◆ ◆
それぞれが揺れを感じながら何が起きているのか。何かを感じているのか。戦いの中心にいたデュラン達には想像もつかないだろう。
だがそんなこと考えている暇などない。
岩に衝突させたデュランは切っ先にべっとりこびり付いているショーマのそれを見ながらむぃに向けて――
「むぃ。アシバは?」
「落としてません!」
「なら良し。避けるからお前は準備が出来たら唱えろ。いいな?」
「オッケーです!」
むぃの言葉を聞いて、むぃの行動を見て言うデュラン。
確かに、むぃは全身を使って、覆い被さるようにアシバを落とさないようにしている。それを見てデュランはアシバの首根っこを掴むと、むぃに『放せ。我が持つ』とむぃにアシバから放れるように促す。
それを聞いたむぃは頷き、パッと即座と言わんばかりに放れると、デュランはそのままアシバを自分の脇に抱え、俵抱きにした状態で武器を構えだす。
明らかにアシバを囮にしている光景で、一歩でも間違えてしまえばアシバは死んでしまう場所に抱え直したデュラン。
しかし、デュランはそれでいいのだ。
それでも攻撃ができる。避けることもできる。むぃに支えてもらわなくてもこれで大丈夫だ。そう思ったからデュランはこの体制に変えて、岩をどかし、土煙の中から現れたショーマに向けて言った。
「ショーマ! お前の目的はこいつなんだろう? なら我からこいつを奪え! 奪うことができたら隙にしてもいい!」
デュランの思いもよらない言葉にむぃは驚きの猫の声を上げ、デュランのことを見上げてしまう。
本気で言っているのかと言わんばかりのその顔をデュランに向けるむぃ。
睨みつけて、言っていることとやっていることが違いますよ! と言わんばかりのそれを向けると、むぃは怒りを取り去った顔を見せる。
効果音で言うと、『はた』である。
怒りの顔が一瞬で消えてしまう衝撃があった時に出る顔の音。
その顔をの音を出した状態で、目を見開いた顔でむぃは見た。
デュランの『やれ』と言う小さな小さな声。
人間の耳では微かに聞き取れない。聞き逃してしまいそうなその声だが、猫人のむぃにはしっかりと聞き取れた。
二文字で表された意味。
それは――むぃの出番を意味していた。
むぃはそれを聞いて頷き、同時に走り迫るショーマを見て、デュランはアシバを抱えている手とは反対の手に収まっている槍をショーマに向けて、横に大きく振るって前進する。
二人同時に前進し、ショーマは触手を、デュランは槍をお互いに向けて繰り出し、そのまま――武器と武器同士が衝突し合う。
ごぉんっと、衝撃の音が聞こえたと同時に、むぃはデュランの人馬の背にしがみつき、息を大きく吸って、声を出した。
「一寸先の闇を照らす一筋の光の糸」
むぃの『詠唱』が始まった。デュランはそれを聞き、感じてショーマの攻撃を片方の手だけで捌き続ける。
ショーマの触手の薙ぐ攻撃も槍の刺突だけでぶつ切りにし、距離を取りながら時間を稼ぐ。
「掴み取れない光の糸を掴む一瞬」
稼いで、むぃの詠唱が終わるまで時間を稼ぐ。稼いで、稼いで、稼ぎまくって、無傷のままデュランはショーマの攻撃を避けて、邪魔な触手の攻撃を薙いで切り刻む。
攻防を繰り返しているが、決定的な隙は生まれない。
体を傷ついてもショーマは悪魔族。傷をつけてもその体を犠牲にして逆に隙を産もうとするだろう。
隙が生まれれば、逆に奇襲できるその時を待ちながら、デュランは攻撃を躱し、薙いでショーマの攻撃を斬る。
斬りながらでも触手の再生能力は健在で、切り刻まれながらも攻撃の手は緩むことなく、どころか斬られながらも特攻する。
それを見ながら、奇襲ができるその時を待とうとした時、一瞬目の前に迫って来た六つの触手。それがデュランの目の前に迫り、それが顔面に当たる――三秒前。
「一瞬で変わる別の世界に我を誘ってくれ」
その瞬間が来た。
詠唱が言い終わったむぃは目の前を真っ直ぐ見つめるように顔を上げ、人馬の体にしがみついたままむぃは叫ぶ。
「――『一分の巻き戻り』ッ!」
むぃの『詠唱』が言い終わると同時に、むぃの体が、体全体が発光する。
まるで内側から光っているかのような光景だ。薄暗い世界からすれば眩しい光。
その光を浴び、その光に呑まれたデュランは驚きながら光を手で遮り、一体何がい起きるのか考えながら待つと………。
デュランの意識が、暗転した。




