PLAY151 悪魔の心、抉れる①
『詠唱』
それは選ばれた者にしか使えない力。
『詠唱結合書』と言う書物に封印されたそれは、『詠唱結合書』に選ばれたものにしか扱えない代物。見極め方としては――詠唱結合書に結び付けている紐が黒ではなく白ければ使えるというわかりやすい見分け方がある。
そして種類があり、通常詠唱と特殊詠唱があるのだが、アキやキョウヤが使っている通常は『必中の狙撃』や『殲滅槍』。『大天使の調律』、『滝の窓掛』等々。
特殊詠唱は『大天使の息吹』と『断罪の晩餐』、『志高き蜥蜴の乱舞踊』、『氷河の再来』などがあり、多種多様の『詠唱』が存在し、それを制作しているのが『12鬼士』が一人トリッキーマジシャンである。
ゲームの世界で言うと必殺技に近いそれだが、誰もが使えるわけではない。
誰もが使える力となってしまえば力のバランスが崩れ、現実世界で言うとゲームバランスの崩壊。この世界の考えで言うと、戦争に発展してしまう恐れがある。
だから誰も使えない。選ばれた者しか使えない力。選ばれた者が、その力を悪用せず正しく使うことができる物しか使えないようになっている。
そんな『詠唱』を、むぃは使うことができると豪語したデュランの返答は………。
◆ ◆
「お前………正気かっ? 空気が薄すぎておかしくなったか?」
「――むぃは正常で通常運転です! 頭も滅茶苦茶冴えてますって!」
質例極まれり!
返答を聞いたむぃはデュランの背の上で手足をばたつかせながら怒りの乱舞を繰り出すが、手足が短いせいでデュランに届かない。届かないのでそれを見ながらデュランはもう一度聞く。
「本当なのか? 『詠唱』を見つけたというのは」
デュランも内心半信半疑だった。一体どこで『詠唱結合書』が見つかったのかわからない。わからないが事実、むぃの言う事に偽りを感じない。それが指すことは本当なのだが、それでも信じられなかった。
むぃが選ばれることもだが………。
「モチのロン! 特殊じゃないけど、それでも前にデュランさんから聞いた『白い紐』だったので、私にしか使えない『詠唱』だったんだと思います。勿論頭の中にもありますよ! どう使うのかも、ちゃんと理解しています」
「………そうか」
『詠唱』が選んだ力が『通常』なのか、『特殊』なのか、今もわからない。わからないが、正直者で嘘をつかないむぃの言う事だ。偽りなど感じない。
そう思ったデュランは頷き、目の前で六つの触手を縦横無尽に動かしているショーマのことを見て言った。
「それなら――お前の力を借りたい」と言って………。
「どう使うのかも理解しているなら、どういった場合に使う?」
「使う時ですか? それはもう戦いの時に使いますので、デュランさんはむぃを守りながら戦ってください。できるだけ無傷で避けて、あとはショーマさんに攻撃することはやめてください」
「攻撃をするな………と言う事か?」
「その通りです」
むぃの言葉を聞いて、デュランは一瞬振り向いてしまう。むぃが座っているその場所を見下ろすように振り向いて。
つまり――戦いに時に使うから避けてほしい。でも相手に攻撃しないでほしい。
それが指すことは………ショーマに攻撃するな。でも無傷で戦って粘ってほしいという事。
粘ることは問題ない。攻撃しない理由も、きっとショーマのことを思ってかもしれないが、それではじり貧になってしまう可能性が高い。
攻撃しないで粘ることはかなりの重労働になる。そして避けながら持ち堪えることが、どれだけ辛いのかもむぃは分かっていないのかもしれない。
勿論デュランからすれば苦ではないことだ。だが、それでいいのかと言う不安もあり、デュランはむぃに聞いたのだ。
それでいいのか。それを聞こうとしたが、デュランはむぃのことを見降ろし、彼女の目を見て――言う事を………。
「………わかった。そのくらいならできるが、勝てる確証はあるのか?」
聞かないことにした。
聞くことができない。聞いても無駄だと悟ったからデュランは聞くことを止めたのだ。
簡単なことだ。簡単な理由だ。
むぃの真っ直ぐな目を見て、本気で言っていることを理解したから。
――こんな真っ直ぐな目を向けられたら、『別案を考えろ』なんて言えない。
そう思いながらデュランはむぃに聞く。
勝てる保証はあるのか。
その言葉を言い終わると、むぃは頷き――
「確証ありです! でもまずはデュランさんが無傷で避けることが前提で、あとはむぃに任せてくださいな!」
「そこまで言うということは、自身があるんだな」
そう言った瞬間、デュラン達の前にショーマが現れ、悪魔族のショーマは背中から出ている六つの節足のそれを一つにまとめ、刺突の姿勢でそれをデュラン達に向け、放つ。
空気を裂く音と破裂の音。
それが同時に聞こえてもデュラン達は避けない。避けないで――そのまま地面と共に餌食となってしまった。
刺突の所為で地面が割れ、裂け目が大きく出来上がり、その間にショーマが放った触手がある状態。まるで気に鋭利な鉈を突き立てた時の裂け方だ。
抉れ、周りの柱も道ずれになって崩れ、下の階層に落ちていく。ガラガラ大きな音を立てて落ちるその光景を見て、突き刺さっている自分の触手を見ながら、悪魔族のショーマは首を傾げる。
唸り声を上げながら首を傾げ、引き抜いた触手を見ながら首をひねり続けている。
何か不満がある――ではなく、おかしいと言わんばかりに首を傾げているのだ。
触手を回しながら周りを見て、何もついていないことに不満の顔を浮かべる悪魔族のショーマ。その光景を見て、悪魔族のショーマの死角になるように奥の岩陰に隠れながらデュラン達は小さな声で言う。
もうわかっているかもしれないが、あの攻撃はデュランからすれば簡単に躱せる攻撃だった。見なくても躱すことができる物だったので、デュランはむぃの話を聞きながら何の苦もなく避けて、ここまで走ってきた。それだけの流れ。
何の苦もなく避けてここまで走って来たデュランの行動に、それに加えて気絶しているアシバを担いでここまで来たことに驚きながらむぃはデュランの話に耳を傾ける。
「よし。我があいつの攻撃を避ける。その間にむぃ、お前が『詠唱』を放つでいいんだな?」
「は、はい! それでショーマさんの目を覚ますことはできません。なのでむぃの『詠唱』が終わったら、その後も任せてもいいでしょうか?」
「つまり………」
「物理でお願いします! むぃの『詠唱』は奇襲と隙を作ることがメインなので!」
「………トリッキーマジシャンが何を作ったのかまではとやかく言いたくないが、わかった。それでなんとかする」
むぃの追加の条件を聞いたデュランは頭を抱えそうになる。攻撃の『詠唱』出ないことは予想していた。シャーマーが攻撃スキルを持つことはあまりない。むぃも戦闘特化ではないことは分かっていたので、消去法で防御か支援の『詠唱』と思っていた。
結果は支援のような――奇襲に特化したもの。
これは言葉の言い様だが、奇襲であれば、不意を突くことができるならそれでいい。
『詠唱』にも多種多様のものがある。
『大天使の息吹』や『断罪の晩餐』のように、『終焉の瘴気』にしか使うことができない限定のものもあるのだ。
とやかくは言わない。
デュランは頷きながらむぃの頭を撫で、撫で終わった後すぐに視線を前に向けてむぃに向けて言う。
「アシバを乗せる。このまま隠していたらいずれ攻撃は降りかかるだろう。囮にする」
そのくらいの責任は取ってもらおう。
そう言たデュランの言葉に、むぃは頷いて俵抱きの状態で人馬の背に乗せられているアシバの背に猫の手をどっしりと乗せる。
全体重をかけるように、ずっしりと、アシバの口から「ぅおえっ」と言う声が零れてもお構いなしに押し付けて、落ちないように徹底するむぃ。
そんな光景を視界の端で振り向きざまに見ていたデュランは、内心そこまでしなくてもいいのにとは思ったが、それでもやらないよりはいいかと思い、再度目の前に集中して――
「走るぞ」
とむぃに伝え、むぃの「はい!」と言う返事を聞いた後、デュランは駆け出す。
がっ! と蹄の音が鳴り、同時に地面に抉れが生じて、抉れ、欠けたそれが岩の壁に向かって飛んで行く。
飛んで行くそれに目もくれず、デュランは蹄の音を鳴らしながらショーマに向かって駆け出す。
背中にいるむぃもアシバのことを押さえ、自分も落ちないようにデュランの人馬の背にしがみつきながら耐えている。
人馬の背に乗ることはたまにしかない。いつもはコウガの背にしがみついているむぃだが、あまりの風速と振動に落ちそうになる。
振り落とされると言ってもおかしくない。
それでもむぃは落ちないように、アシバを落とさない様にしがみついている。そんな光景を見て、デュランも細心の注意を払いながら駆け出し、未だに触手を見ながら首を傾げている悪魔族のショーマに向かって特攻し、槍をショーマに向けて、刃をがない石突の方をショーマに向けて突き立てる。
刃がない刺突は刺突ではないが、それでも面積がない分痛い事に変わりはない。
変わりないが、攻撃ではなく動きを一瞬止めることに使うことができるので、デュランは敢えて石突の方で攻撃を繰り出したのだ。
細心の注意――間違ってもショーマを攻撃しない意志を込めて、デュランは悪魔族のショーマに語りかける。
「もう終わりにするぞ。ショーマ」
お前は――いつものお前の方が似合っている。
その変わり果ててしまった顔、すぐに壊してやる。
そう言って、デュランは石突の方で刺突したそれをショーマの胴体に向けて繰り出した!




