PLAY150 悪魔、暴走⑥
「占星魔法――『反射鏡』ッ!」
聞き慣れた声が聞こえたと思ったと同時に、視界一杯に広がる長方形の透明の壁。デュランの視界を覆う様にそれは現れ、デュランに攻撃しようとしていた悪魔族のショーマの触手を、罅割れながらも受け止めていたのだ。
びき、びき――と、軋みながら音を立てるそれを聞きながら、デュランはすぐに辺りを見渡して術者を探す。
こんな薄暗くて岩が多いところだ。きっとどこかに隠れているはず。
そう思ったデュランは頭がないそれで辺りを見渡し、すぐに見つけた。否――術者本人がデュランに駆け寄ってきたのだ。
「――デュランさん! 加勢しますよぉ!」
「むぃっ! お前いつの間に! 早くコウガの所に戻れ!」
そう、術者はむぃだったのだ。
むぃはデュランに掛けより、あまり疲れていないのか息を軽く整え、一度深呼吸をしてからデュランを見上げて言う。
首が千切れてしまうのではないかと言うくらい首を振り、デュランのことを見上げてむぃは言った。
「いいえ!」と、きっぱりと、はっきりとした否定のそれを言ってから――
「コウガさんの所に戻るよりも、むぃは使えません! だって回復系の人なんていないし、むぃが役に立つならこっちしかないって思ったんです! むぃの判断でここに来たので、コウガさんに何か言われたら『むぃの判断だから怒るな』って言ってください!」
怒られることを前提にして話しているな。
先ほどまでの緊張は少しだけ解れ、むぃの言葉に対して面白さを覚えながら鼻で笑うと、むぃはするすると猿のように………、猫人の亜人なのだが猿のようにデュランの足を伝って上り、そのままデュランの人馬の背に跨る。
ちょこんっとその場で座り、落ちないようにしっかりとデュランの背中の鎧を掴んだ状態でむぃはデュランに言う。
「状況ですが、あれって――ショーマさん、で、いいんですよね………?」
むぃの言葉を聞いたデュランは、一瞬言葉を詰まらせた。
どう言えばいいのかわからなかった。それが本音だ。
むぃが言うあれとは、まさに黒くなり、人の姿ではなか卯なってしまった黒いショーマのことを指している。
ここでの表記は分かりやすいように『悪魔族のショーマ』と書いているが、デュラン達が見ているそれはショーマそのものだ。黒くなっても、どうなってもショーマなのだが、それを伝えていいのか、デュランは一瞬迷ってしまったのだ。
だが、ここで迷って『敵だ』と嘘をついても意味はない。
むしろその気遣いをしたところで、頭のいいむぃのことだ。気付くだろう。
なら――
「ああ。あれはショーマだ」
「やっぱり」
デュランは真実を伝えた。その真実に対して、むぃは察していたのだろう。あまり驚きもしない口調で一言言った。
やっぱり。
きっと、姿を見てもしかしたらと思ったのだろう。
敵が化けた姿と言えばうそをつくこともできるが、そこで嘘をついてもいいことはない。そう思ったデュランはむぃに向けて言った。
これからするべきことを。
「我は今――あいつを止めるためにここにいるんだが、あいつは自我を失っている。声をかけてもダメだった」
「アニメでよく見る………、洗脳された人の顔とそっくりです。目がゆらゆらでちゃんと見ていない顔をしています」
「あに………なんだ? まぁそうだな。そんな感じだ。あいつを元に戻すために、今ここにいる。そして、あいつをあんな風にした元凶は、あそこに隠している」
デュランは言う。
ショーマをこんな風にさせた元凶――敵を、アシバを隠していることを伝えると、それを聞いたむぃは頷き、「分かりました」と言うと、デュランの背中越しからショーマのことを見てこう言った。
むぃの視界に移る悪魔族の姿のショーマは、今もなお背中から出している節足の触手をうねらせながら攻撃の威力を温めている。
まだか、まだかと言わんばかりにうねっているそれを見ながら、むぃはデュランに向けて言った。
「元凶がどうであれ、ショーマさんには元に戻ってもらいましょう。元凶に対して怒るよりも、その元凶を殺そうとしているショーマさんの方が危ないです。危ない方を止めるのは当たり前のやり方ですからね。気絶の方がいいでしょうかね?」
「………意外と、冷静だな。お前くらいの歳なら、もっと泣き叫んでもいいくらいだぞ」
「むぃはそんじょそこらの子供とは違うんですよ。むぃはちょっと大人の子供なんです。そこは見誤らないでください」
「分かった。わかったから――来るぞ」
「にゃ?」
冷静に状況を理解したむぃはデュランに向けて提案して意見を求める姿勢を見せる。
冷静で、大人顔負けの判断をするむぃの言葉に、少しだが驚くデュラン。
もっと子供らしい言葉を並べると思っていた。もっと感情的になると思っていたデュランの想定の斜め上を言ったむぃの発言に、子供らしくしてもいいと言うが、むぃは頭を振って否定する。
否定した後の言葉は、まさに大人ぶる子供だったが、それを聞いて安心したデュランは安堵のそれを吐いて――攻撃しようとしているショーマを見て、逃げる態勢を作る。
デュランの言葉を聞いて驚くむぃを無視して、デュランは迫って来たショーマの突進を見て、軽々と人馬の足を蹴って、跳び越える。
馬が障害物を越える美しいフォーム。それを体現した姿で突進してきたショーマを跳び越え、突進しているショーマを見て驚きの顔をして見降ろすむぃ。
双方の攻撃と防御が一瞬の画となり魅せる光景。
それは一瞬の光景で、一瞬で終わってしまう。
突進したショーマは避けられたことに気付き、体を捻って六つの触手を地面に突き刺して速度を殺し、跳び越えたデュランはそのまま流れるように地面に降りると、すぐに向きをショーマに変えて槍を突き付ける。
突きつけ、ない目を向け、むぃもショーマのことを睨みながら警戒を研ぎ澄ませる。睨まれ、ゆっくりとした動作で立ち上がるショーマの足は覚束ないが、それでも攻撃しないという選択肢はないようだ。
六つの触手と、元々ある二本の手の指から関節を鳴らす音が聞こえる。
ボキ、ボキ。
何かを折るような音を聞きながらデュランはむぃに聞いた。小さい声で、ショーマに聞こえない声量で彼は聞く。
「それで? 加勢しに来たと言ったな?」
「にゃ?」
デュランの言葉を聞いてむぃは首をかしげるが、すぐに自分で言った言葉を思い出し、頷いて「そうです!」と言うと、むぃは猫の手でVサインをだしてデュランに言う。
自慢げに、これなら勝てるという確信の笑みを浮かべて――
「むぃ――とうとう見つけてしまいました! 皆さんが持っていない力を、会得したのです!」
「持っていない力? なんだ?」
「もー。デュランさんならわかると思っていたのに、わからないのは悲しい事です。厳密にはデュランさんしか持っていなかった力を、むぃも持つことができたって感じですね」
「………まさか」
「そうです!」
むぃも――とうとう『詠唱』に選ばれました!
ショーマチームの中では一番乗りですね!




