PLAY150 悪魔、暴走⑤
デュランの駆け出しと同時に、土煙から出てきた悪魔族のショーマ。
背中から出ている六つの節足の触手を牙のように鋭く尖らせ、まるで突き刺そうと言わんばかりにそれをデュランに向ける。
駆け出して走って来るデュランに立ち向かう様に、悪魔族のショーマも地面を蹴って駆け出す。
普通に二本の足で――ではなく、手を使った獣のような走り。
その走りをしながら背中の六つのそれをデュランに向けて、刺突を繰り出そうと尖ったそれを一つにして、グネグネと肉を曲げ、骨を造り変えるように姿かたちを変えながら走り、迫るショーマ。
いつぞやか、ハンナ達が戦った『ポイズンスコーピオン』と同じ光景。
それはデュランも同じことを思っていた。
――ポイズンスコーピオンの造り変える力。
――だがあれは、異国の冒険者『魔導士』系統の『アルケミスト』や『ソードウィザード』を食ったことによって得た摂食交配生物の力。
食べた生物の何かを自分の者にする力。
それ近い物を感じたデュランだったが、あれは違うとその既視感を切り捨てる。
――いいや違う。あれは。
そう思った瞬間、形が定まり、定まった瞬間走っていたその態勢を跳躍に変えて蹴り上げるように跳ぶショーマ。
跳び、背中から出て、形を変えていたそれを一気にデュランに向けて繰り出す。
ぎゅんっ! と、発条の力を使ったかのように勢いよく放たれたそれを見て、デュランは驚きもせず、焦りなど出さずにそれを対応した。
いいや――もう対応した。
切り裂く音すら聞こえない中、ショーマが放ったそれをいくつもの輪切りのそれにしてデュランは更に走るスピードを上げる。
輪切りにした時顔が見える飴と同じ要領で、それをいくつもの輪切りの肉片として斬り落とし、一瞬驚きのそれをするショーマの目を盗んで――死角となる至近距離まで駆け出す。
――あれはショーマ自身が『倒すために急遽作っている力の形』だ。
――元々持っている力ではない。
――急遽作った力なら、そんなもの急ごしらえと一緒。そんなもの対処などすぐにできる。
「いっちょ前に頭を使ったつもりか?」
デュランは言う。
至近距離まで近付き、ショーマの眼と鼻の先まで急接近したところでデュランは意識がないショーマに向けて言う。
悪魔族となったショーマにではなく、ショーマに向けてデュランは言う。
「いつから頭を使うしタイルに変えたんだ? そんなことをしてもお前はお前だ。変わらないし、無理に変えなくてもいいんだぞ?」
言葉だけで捉えると馬鹿にしているような言動に聞こえるかもしれない。
しかしデュランはショーマのことを馬鹿にしていない。むしろ――そのままでいいと言っているのだ。
「ツグミのように考えて行動することは、戦いに於いて良い事だが、お前はお前だ。そのままでいい。そのままで、真っ直ぐ――己の新年を貫き通すことは、人として大事なことだと思う」
だが。
言葉の紬を止めるデュラン。止めるや否やショーマの顔面を手で覆い、掴んだ後そのまま地面に向けて叩きつける。
後頭部を地面にたたきつけて、身動きを止めるように強く、強く押しつけてからデュランは続きの言葉を言う。
「その信念を忘れ、目の前の憎しみに囚われるなど、未熟だな」
デュランの言葉に反応しているのか、びくびくっ! と体の節々をびくつかせ、押し付けられている体制から起き上がろうと抗いとして手足をばたつかせ、同時に背中の黒い節足のそれをデュランに向け、再度刺突を繰り出そうと勢いのある攻撃を繰り出す。
輪切りになってしまったそれも元通りになったそれをデュランに向けるも、それもいとも簡単に輪切りにしてしまうデュラン。
またもや音のない攻撃。
それを息をするかのように、流れるような動作で繰り出すデュランは押し付けているショーマに向けて更に言葉をかけていく。
「お前はまだ子供だ。それは理解している。理解しているが、それでも目先の憎しみに囚われ、怒りに身を任せた結果がこれか? お前はそれでいいのか? それで大切な親友を取り戻そうと、目を覚まさせるんだろう? その前にお前が壊れてしまっては意味がないんだ」
声にならないそれを上げながらショーマは暴れる。
だがデュランの手がどくことはない。
否――どかさないと言わんばかりに押し込む力を強めてデュランは言う。
「憎い気持ちは分かる。親友を壊した奴が憎いのも分かる。だが今は己を見失うなっ! 見失って、目の前が見えなくなっているお前を見て、ツグミやコウガは言葉が見つからない状態だ! お前らしくない――お前の真っ直ぐな姿が無くなってしまえば、みんな悲しむぞ!」
暴れて、地面に爪を立てるも爪が剥がれて地面に血の跡を残すショーマの行動を見ても、デュランは離さない。
放したいが、放したくない。
今は――言葉をかけて、ショーマを元に戻すしかない。
「お前のもう一人の親友も、お前の今の姿を見たら悲しむぞっっ!!」
目を覚ませ! 馬鹿者っ!!
思うが儘の言葉。心が思っていた気持ちをそのまま言葉にしたデュラン。
今のお前はお前じゃない。今すぐ戻れ。その気持ちを言葉にしてデュランは叫ぶ。心に訴えるように叫ぶが――
「▼▼▼▼◆◆◆◆■■■■○○○○っ!」
言葉になっていない何かを叫ぶ悪魔族のショーマ。
押さえつけられている手を何とかどかそうと、節足の触手を使ってデュランに攻撃しようとしている。だがその攻撃もデュランの手にかかれば気にも留めないで済むもの。
音のない薙ぎを繰り出しながら節足のそれを輪切りにしていくデュラン、だが………、顔のないそれに浮かんでいるものは――苦痛しかない。
声が届いていないことが衝撃だったこと。同時に、まだ殺す意思を持っていることに、ショックを隠し切れなかったのだ。
それは簡単な話――まだアシバのことを憎んでいるという事。
ここで『そうだね』と言って終わるほど世界は甘くないし、きれいではない。
憎しみは早々消えないことも重々理解しているデュランでも、こればかりは心に来るものだった。
――そこまで殺したいのか? こいつのことを。
デュランは思う。思いながらデュラン派薙ぎを繰り出し続け、ショーマの攻撃を牽制しながら思った。
――お前は親友想いなのはわかった。わかったが、その姿で………これ以上他人を傷つけるのはやめろ。
「そんな姿で………、その姿で人を殺してしまったら、ツグミ達が悲しむぞ………!」
親友の名を口にしてもショーマの攻撃はやまなかった。止まない六つの………。
否――
五つの節足の触手の攻撃を止めながら、デュランは小さな声で『くそ』と呟く。
呟き、どうすればショーマは戻るのかと考えを巡らせていると………、背後から聞こえる何かが這う音。
ずりっと、地面を擦る音が聞こえ、その音がした方を振り返ると、そこにあったのは――一本の節足の触手。
「――っ!?」
ようやくデュランは気付く。考えに集中していたせいで頭上の攻撃が五つの節足の触手だけで行われていたことを。そして最後の一本は背後を蛇のように這っていたことに。
だが、気付くのが遅すぎた。
遅すぎたからこそ、勢いよく迫るそれに対応する前に、それはデュランの胴体に向かって、心の臓に向かって――
がぁんっ!
と、金属特有の音が辺りに響き渡った………。




