PLAY150 悪魔、暴走②
この世界の悪魔は皮を被っている。
これは創世記から語り継がれている言葉。
決して彼らを怒らせてはいけない。
今見せている顔は仮初。
本性の顔を見てしまうと、生き地獄を味わう。
悪魔族の大罪の手によって。
◆ ◆
「大罪………?」
デュランの口から放たれた言葉を聞いたツグミは、理解できない表情を浮かべていた。
――なんの大罪なんだ?
――大罪って、よく聞く七つの大罪のこと?
ツグミは思う。思い出す。
七つの大罪は色んなアニメや漫画でよく使われる言葉。
言葉通り罪を意味したり、力の意味として使われたり、通り名などなど………。いろんな場面で使われる。
だが実際は七つの死に至る罪として伝えられているが、ここまで来ると難しくなる。
そもそもその言葉を詳しく調べていない。かじっただけの知識しか知らないツグミからすれば、本当にわからないとしか頭に浮かばなかった。
「大罪って、そんなショーマが七つの大罪の一つを持っている的な展開なの? 言っておくけど、ショーマは罪から程遠いやつだから、そんなのあり」
そんなのありえない。
そうツグミは言おうとした。
実際、現実世界のショーマの家族構成、家族の職業から考えてありえない。
どころか正義感だけは人一倍強いショーマに限って、そんな罪を抱えているとは思えない。
だから言おうとした。ありえないと。
しかし………、デュランの返答は、思っていることは違っていた。
「行き過ぎたそれは、時に大罪になる」
ツグミは黙った。
黙ることしかできなかった。
本来であれば皮肉混じりに『ありえない』ということもできる。できるのだが、できなかった。
なぜなのかわからない。わからないが、デュランの言葉を聞いた後、納得してしまった自分がいたのだ。
行き過ぎたそれは、時に大罪になる。
その言葉がなぜか、今のショーマにピッタリとはまっていると、なぜかそう思ってしまったのだ。
直感。
そうとしか言えない。どうしてと聞かれてもわからない。わからないが、今のショーマがそれだと、そう思ってしまい、何も言えなかったのだ。
何も言わないツグミを見て、デュランは続けていう。
遠くで破壊音が飛び交う。
それを聞きながら、馬の蹄を鳴らしながらデュランは言う。
「『悪魔族は大罪を力に変えることができる』ヘルナイトから聞いたが、『暴食』の悪魔にあったらしい。敵でなくて安心した。あの悪魔はありとあらゆるものを食べ、消す力がある。本人はそれを『消化』と言っていたが、本当にその通りだ。言葉通り喰った人物、力、武器、災害、ありとあらゆる喰ったものが食った時を境に消滅している」
「………!」
そんなことがあるのか。
デュランの言葉を聞いてツグミは青ざめながら息を呑む。近くで聞いていたコウガも小さな声で「マジ、か………!」と絶句してしまいそうなそれを零してしまうほど。
悪魔――この世界では悪魔族だか、そんな力があるなんて聞いてない。
純粋な力も怖いが、事象を曲げてしまう力を持っている存在も怖い。
「『暴食』の力が何でも食べて、消化したいものがあったら消化して消す力なら、他の『大罪』の力もやばいって事じゃん………。そんなことMCOの時はなかったのに」
変な改悪してんじゃねーよ。
そうツグミは心の中で悪態をついた。
そんな追加設定なんていらない。そんなアップデートもいらなかった。そんなものを追加するくらいならもっとマシなものを追加してくれ。
もっといろんなことを言いたかったが、今はそれどころではない。そうツグミは思い、現在進行形で轟音響き渡る暗い世界を見ながらデュランに聞く。
「『大罪』の力がすごい事は分かった。わかったけど、ショーマは『大罪』の悪魔族じゃない。悪魔族って言ってもただの下っ端くらいの悪魔族………だと思う。そんなショーマがあんな力を持っているなんて知らなかったし、デュランの考えすぎだよ」
「考えすぎだと、思っているのか」
「思いたい。思いたいから言っているんだっ」
聞いたにもかかわらず質問で返されたツグミは、苛立ちを隠しきれない音色で自分の気持ちを吐き捨てた。
そう思っている。否――ショーマに限ってありえない。
一抹の希望のように抱く言葉を吐いたツグミ。
――ショーマに限ってそんなことありえない。殺そうとしていること自体間違いだ。
――きっと敵の攻撃で混乱しているに違いない。きっとそうだ。
――そうに決まっている。きっとそうなんだ!
「ショーマは人一倍正義感が強くて、人一倍単純で真っ直ぐすぎるだけっ。そんな奴が殺してでも悪を倒そうとは思わない! だってあの鎧野郎の時だって殺そうとしなかった。最後には話をしようとしていたんだ。話を聞こうとしていた」
「ツグミ。わかっている」
「分かっているならなんでそんなこと言うんだよっ! あいつが人を殺す度胸があると思っているのっ? 僕はないと思っている! だってあいつが一番したくないことが『犯罪』で、いじめられているメグを一番に助けようとした馬鹿なんだっ! そんな奴が」
「悪魔族は確かに人の姿をしているが、悪魔は悪魔で、ショーマも『罪』を持っている」
「………?」
ツグミの言葉に重ねるようにデュランは言う。
ショーマが罪を持っている。
それはコウガも聞いていたが、理解できない言葉であることに変わりない。ツグミはその言葉を聞いて顔を疑問に歪めてデュランのことを見上げる。
どういうことなんだ? そんな言葉が顔に書かれている。
そんなツグミの疑問を解消するために、いいや――悪魔族のことを知ってもらうために、デュランは告げたのだ。
「いったはずだが。アズールの悪魔族は………、否――この世界の悪魔は皮を被っている。人間族と共存するために、人間族に害をなさないように力を制限している姿が、今の姿だ。 悪魔族の本当の姿を――彼等が感情に任せた瞬間、彼等の周りが黒く染まる」
「それは、わかってる。聞いたから」
「そしてその力の源は『大罪』の力。悪魔たちが背負う『罪』だ」
「『罪』って、殺人とか、窃盗とか? 悪い事を指すんだろ?」
「違う。『罪』に種類はないと、我の師匠は言っていた」
罪に種類はない。
またわけのわからないことを言う。そうツグミとコウガは思った (一応師匠と言う言葉にも反応したが、今は関係ないので聞き流している)が、そんな二人を無視してデュランは続ける。
暗い世界で、アシバに猛攻を繰り出し続けているショーマが、最悪の事態を招かないことを願いながら………。
「きっと――ショーマは悪魔族らしくない真っ直ぐすぎる『正義』が原因でああなったんだろう。行き過ぎた『正義』は罪だ。アシバという男が行ってきたことを思い出し、ショーマの中にある『正義』と言う信念が、暴走しているんだ」
「『正義』が………犯罪?」
「悪を滅ぼす英雄は、確かに大衆からすれば憧れかもしれない。だが――その滅ぼす行為が行き過ぎれば、それも『悪』になり、『罪』になる」
ショーマは、行き過ぎた『正義』に呑まれているんだ。
勧善懲悪。
この言葉を知っている人も多いだろう。
善い行いを推奨し、悪い行いを懲らしめるという意味があり、物語における悪を倒してハッピーエンドになるという展開にも使われている。
誰もがよく見る王道のパターンだが、そのパターンが行き過ぎるとどうなるのか?
悪を根絶やしにするために、手段を問わない『正義』
これは――正しいのか? 正しくないのか?
それは人によりけりだが、行き過ぎた『正義』が『罪』になる。それが今体現されたことは間違いない。なにせ――
『正しい』ことを心掛け、真っ直ぐなショーマが悪魔の力に呑まれているのだ。これが何かの間違いと言えるのか? デュランは思う。
言えない。
ショーマは、『正義』に溺れてしまった。
その結果が今、目の前に現れている。
今まで見てきたショーマがかすんでしまうほどの攻撃の嵐を聞き、デュランは槍を構え、馬の蹄の跡を地面に濃く残す。
がりっ! とひっかくように蹄を鳴らし、歩みを進めるデュラン。
「? デュラン?」
デュランの行動に困惑しながら見上げるツグミを振り向きざまに見るデュラン。
首がない頭ではどこを見ているのかわからないが、それでも視線はコウガとツグミに向けられていることは確かだ。視線を感じる。長い間一緒にいたのだから、ツグミ達は自分達のことを見ていることを理解していた。
理解して、デュランが立ち止まった状態でいると、ツグミは聞こうとした。
聞こうとした。が………聞けなかった。
聞きたくなかったでもない。聞いても無駄だと思ったわけではない。
本心が、それを拒んだ。
自分で口にすることが怖かった。だから、言えなかった。
しかしそんなツグミを見て、デュランは前を向いて一言――
「大丈夫だ。あいつは我が連れ戻す。お前達はそこで待っててくれ」
「!」
「お、おい………!」
デュランの言葉を聞いてツグミは驚きで立ち上がろうとしたが、そこまで回復していないのか膝をついてしまう始末。コウガはまだ毒が回っているせいで動けない。だが止めようとしていることは分かっている。
わかっている。わかっているからこそ――止めたい。
「安心しろ」
そう言ってデュランは駆け出す。蹄の音を鳴らし、槍を構えて――
「我は『12鬼士』だ。悪魔族に負ける程、落ちぶれていない」




