PLAY149 片鱗⑤
ウィリパムが逮捕され、彼が組み立てたツール『マッドドック』は全部破棄された。
――と思われたが………。
「まさか………本当に一つだけあったなんて、都市伝説でも笑えない話です」
猫の走りで周りに何かあるか探しながら言うむぃ。
その顔には焦りと困惑が混じっている。
自分の記憶の中にある情報が間違っていた。と言うよりも――記憶の中にあった情報に更なる情報が入ったことで、内心混乱していたのだ。
全部破棄された。
これは有名な週刊誌とネットニュースに書かれていた内容であり、調べた限り破棄されたことは間違いなかった。
残っているツールも一切ない。
完全に削除されたという情報しかなかったのだ。無理もない。
しかもそのツールをアシバが使って、しかもその力はアップデート後の世界になっても適用されている。
あっていいことじゃない。そうむぃは思うが、大人の考えることだ。子供のむぃにはわからないこと。
――もしかしたら、わからないでそのままだった可能性も高いかも………?
――いいえそんなことないです。RCがすごい事は分かっていますし、そんなミスをするのかと思うと、思えないですね。たとえ一瞬思ったとしても『違う』と思ってしまう。
「いずれにせよ――大人の難しい事はむぃにはわかりません………」
はぁ。と溜息一つ吐くむぃ。
子供の考えること。大人の考えることを取り除いても、他人の考えることだ。
そんなことわかってしまえば言葉なんていらない。
結局、これも時間の無駄だ。
このことに関して考えることを止めたむぃは、すぐに周りを見渡して何かないか――猫の目を使って目を凝らす。
いずれにせよ、アシバの運命は決まっているのだから。
「にぃやぁあ~? ないないない! あそこもない! そこにもない! 目を凝らしてもあるのは石の柱と大きな岩と小岩! いわいわいわいわいわいわいわまみれ! 頭が『い』と『わ』まみれになって気持ち悪くなってきましたぁ!」
あたりを見渡し、周りを見回し、ゲーム脳ならではの隅々まで探し、石の柱の後ろや岩の影に潜んでいるかもしれない宝箱らしきもの、何かの物らしきもの。物と言うものを徹底して探すむぃ。
王道のゲームの宝箱を探しても見つからない。
壁に触れては通り抜けられる壁がないか確認しても壁。
結局、探せるところを探しても何もない。それが結果になってしまっている。
否――なってしまった。のかもしれない。
「いやいやいやいや! まだ希望を捨ててはいけないっ! まだ探し残しがあるかもしれない! ゲーム脳の思考になれむぃ! ここがゲーム! 制作者たちの意地悪を見抜くんです! 制作者の遊び心と『見抜けないだろう』と言う嘲を壊すんです! まだ探してないところは………!」
一応断言しておく。
むぃはこのゲームを作った制作者たちに対して恨みなど微塵もない。
むしろ感謝しているくらいだ。
なので彼女が言っている言葉は本音ではないが、どうすれば打破できるのかと言う思考に染まってしまっているのでこんなことを言っているだけである。
そう――打破しないといけないのだ。
アシバが使うチートは厄介だ。いずれ来るであろうその時が来るのはいつなのかもわからない。
その時が来る前に全滅なんて笑えない。
笑えない冗談ではないからこそ、その前に何とかしないといけないのだ。
なんとか――アシバと対等に渡り合えるものをいくつか。
いいな一つでもいい。
一つの打破できるものでもいいから、見つかってほしい。
――むぃの運のモルグはカンストしているのに………! どうして見つからないの?
――これじゃ………むぃは何もできないお荷物じゃないですか!
――そんなの嫌だ! むぃはもっと皆さんと一緒にいたい! もっとみんなと冒険して、戦って、夜のキャンプを楽しんだりアクシデントに巻き込まれたり………!
――もっともっともっと! みんなと一緒にこの世界を旅したいのに! この世界を救って元の世界に、みんなと一緒に帰りたいのに!
「みんながいなくなったら………ダメなんです」
むぃは呟く。
猫の爪を立て、引っ掻きながら彼女は駆け出し、周りを駆け巡りながら言う。
「いなくなったら――また一人になる! そんなの嫌です!!」
叫ぶむぃ。その声には悲壮や恐怖が混じっている。
一人は嫌だ。それがずっしりとのしかかるように伝わってくるのは、彼女がそれを経験しているから。
一人の時間は怖い。一人の時間だけは嫌で嫌で仕方がなかった。
もう――あんな思いをするなら、この世界で知らない人と一緒にいた方がいい。
その思いだけで、一人の少女は年齢制限を無視してゴーグルを手に取り………。
がりっ!
駆け出す手と足に力が入り、爪の跡が地面にくっきりと残る。
そのくらい彼女は力強く踏み込んで走っている。
駆け出しているのだ。
一秒でも、コンマ一秒でも早く見つける。
みんなが死んでしまう前に。一人になる未来を避けるために――
「!」
すると、むぃの猫の視界に何かが入り込んできた。
岩でも、石の柱でも、小石でもない。薄暗い世界に一瞬光ったそれは、神殿内に開いてしまった岩の穴から差し込む光の影響で一瞬、本当に一瞬だけ光ったのだろう。
それがむぃの視界の端に入り――同時に光った先に目を凝らすように向けたむぃは、それを見て見開く。
彼女の視界の先には――石の柱の少しだけ出っ張ったところに引っかかっていたボロボロの革製のカバン。切り刻まれた後がいくつも残り、肩にかける紐には赤黒い何かが幾つも付着している。
そのカバンを見るに、誰かの所有物だったが、アクシデントで最悪の末路を辿ってしまったのだろう。
それがここにあり、同時にそのカバンの中から顔を少しだけ出す手鏡と、一つの巻物。
彼女の視界に入ったのは手鏡――ではなく、巻物に巻き付いている紐。
その紐が広く光り輝いていたのだ。
それを見たむぃは確信する。
――やった。と
◆ ◆
そのころ――ショーマ達は、否。厳密にはショーマは、アシバと相対していた。
武器は壊れた。体もチートツールの所為で痛みが走り、思う様に動かせない。おまけにHPもどんどんなくなっていく。
まさにデバブ状態だ。
だが………。
――なんでだよ………!
アシバは思っていた。
一撃食らわされた後、ショーマを甚振り殺すことを止め、徹底的に殺そうと思い、金棒を振り、自分が持っているツールを使って攻撃を繰り出していた。
――なんでだよ………っ!
繰り出して、金棒を使って相手の動きを壊し、そのまま『マッドドック』の爪と牙で攻撃を加えて痛めつけて、徹底的に追い詰めてやろうと思っていたのに………。
――なんでこいつは………!
思っていたアシバの感情に揺らぎが生じる。
アシバの冷静が焦りと苛立ちによって壊されていく。
壊されて、アシバの神力を少しずつ減らしていく。
神力は相手の精神状態を意味し、最も増減が激しいモルグ。
それが下がっているということは――精神的に安定していない。困惑している。
そう、アシバの神力が下がっている原因は………、ショーマだった。
「くそ!」
アシバは金棒を振るい、膝をついているショーマの体を圧し折らんばかりに横に繰り出す。
しかしそれを紙一重と言わんばかりに地面すれすれになって伏せ、そのままアシバに向かって駆け出したかと思えばアシバの胴体に向けて一直線の突進を繰り出す。
否――この場合は頭突きだ。
スピードもない。威力はさほどだがそれでもダメージはある。そんな威力の頭突きをアシバの胴体に繰り出したショーマは食いしばった口から赤いそれを零す。
「――っ!」
腹部の圧迫感と僅かに当たる骨の衝撃。
軋みさえしなかったが、それでも威力の所為で腹部の圧迫と言う名のえづきが出てしまい、衝撃と共によろけてしまうアシバ。
それを見てショーマは追撃と言わんばかりに、今度はその突進を――頭突きを顔面に繰り出そうとしていた。
地面を強く踏み込み、上目を使って狙いを少しの間定めた後、ショーマはもう一度歯を食いしばって二度目の攻撃を繰り出した。
スピードなんてない。人間の力で繰り出されるそれは簡単に避けれるものだ。
「ちぃ! っそ!」
再度頭突きを繰り出そうとしているショーマを見て、アシバは体を右に逸らして攻撃を避ける。避けると同時に指に装備している『マッドドック』の力が付与されたそれを、もう一度ショーマの体に向けて、斬りつける勢いで伸ばす。
――このまま傷を作って、『マッドドック』の負荷を強くする!
――この『マッドドック』は傷つけられた分どんどん加算されていく!
――つまり! 攻撃を受ければ受ける程苦しくなるのは! お前なんだよ馬鹿野郎がぁ!!
相手を見下し、そしてこのまま嬲るのもいいかもしれないと思いながら攻撃を繰り出したアシバ。
避けて、躱されたことと勢いをつけたことによって避けることもできないショーマの体に向けて五指の指を向ける。
猫が人間の手を斬りつけるように。彼もそれと同じ行動をする。
ショーマの肩に向けて、爪を立てて!
びりぃ! と服が破れる音と同時に、服で隠れていた型の付け根が露になり、その場所に新たに刻まれた五本の切り傷。その殻は微量だが赤いそれが流れている。すぐに塞がりそうな傷の深さだが、それでいい。
そう思ったアシバは心の中でほくそ笑み、そして動こうとしているショーマを見て思う。
願うわけでもない。これはもうわかり切っている未来だから。
それを想像して、それが想像通りになることを面白おかしく見守りながら、アシバは思うのだ。
――さぁ、切り傷をつけた。
――後は、お前はそのまま顔面ダイブ鼻血不可避の事態になる!
――さぁ倒れろ! 倒れてそのまま動けなくなれ!
――そして死ね!
――倒れろ!
――倒れろ!
――倒れろ!!
倒れろ。倒れろ。倒れろ。
予測できる未来を描き、その未来が思い通りになる世界を想像しながらアシバは経過を見守る。
頭突きを繰り出した後、そのまま倒れるショーマのことを見て――見守って………、ゆっくり甚振ることを予定に入れて。
倒れた後は簡単だ。
そのまま攻撃と言う名の拷問をして、その後で残った奴らを殺す。
最高のプランだ。
アシバは視線を五指に装備している爪の装備に目をやる。僅かに震えている様子だが、それもただの指の揺れだと思いながら視線をショーマに移して、金棒を握る力を強めて構える。
倒れたところで、金棒のたたきつけをお見舞いだ。
最強の武器と最高のプラン。
結局、行き当たりばったりのこいつに負けるなんて、ありえないんだ。
そう結論付け、アシバは足を動かそうと右足を前に向けて、そのまま地面を踏み込む。
ハズだった………。
それは突然来たのではない。目で追える速さでそれはアシバに近付き、同時に顔面に向けての頭突きを、アシバに向けたのだ。
傷を受けたショーマの手によって!
頭蓋骨同士がぶつかり合う音。それを聞きながら、アシバはそのまま後ろに後退してしまい、なおも追撃するショーマのことを見ながら彼は混乱した。
なんで倒れない。
毒は効いているはずだ。なのになぜ、動けるんだ?
他の奴らは動けなかったのに、どうしてこいつは動ける?
混乱する思考。その状態で見たショーマの姿。
その姿は普段と変わらないショーマの姿でもなければ、負傷し、少し傷つければ倒れそうなショーマの姿ではなかった。
黒く染まり、黒い翼が一瞬見えてしまう――悪魔の姿。
その姿を見た瞬間、アシバは震えあがってしまった。
ぶるりと――畏怖の感情を出し、目の前にいる人間が人間ではなく、悪魔となってしまった姿を見て、アシバは、恐怖したのだ。
自分の目の前にいるのは、今まで嘲ていた存在で、死にぞこないのはずなのに。と――思いながら。




