↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
863/887

PLAY149 片鱗③

 アシバは言葉を失い、動きも止めてしまった。


 ショーマが言った言葉に対して、思考が止まってしまったのだ。そこまで難しい事は言われていない。


 簡単な言葉で、ショーマはアシバに向けて言ったのだ。


 メグも被害者。


 なぜそこまで断言できるのだろうか?


 いいやなぜそんな事を吐くんだ? そうアシバは思ってしまった。


 思ったからこそ――そして思いがけない反論に対して僅かだが、優越感に入り混じってしまった苛立ちを感じながら彼は聞く。


 ショーマの言葉の真意を、その口から吐かせるために。


「あいつが? 被害者? そんなわけないだろう? あのくそ女の父親は『懺悔の輪廻会』の長だ。親父の人生を壊し、友達の家族の人生もぶっ壊した。金も搾り取るだけ絞って、洗脳めいたことをしてはわけのわからねぇ祈りを捧げる。人の人格を壊すようなこともしてんだろうな? 若くていい女だったら二人っきりになるだろうなぁ? そんなことをしている奴の娘が被害者なわけねぇだろうが」

「い、や………」


 アシバの言葉は概ね正しい。


『懺悔の輪廻会』の詳細は分からないが、おおむねやっているであろうことを言葉にして、これで被害者と言う言葉を吐くなんておかしい話だ。


 家族でやっている時点で性根が腐っている。


 そこまでして金儲けしたいのか。


 人を馬鹿にしてまで、心の隙間に入り込んで、わかったふりをして搾り取るだけ絞り、壊していく。


 そんな宗教を創設した家族のことだ。心なんてもうどす黒く腐り切っている。黴だって生えている。


 人間として、何もかもが終わっているに違いない。


 そう思っていたのに、ショーマの返答は………。


「確かに………、その、宗教に、関しては、父さん、が、話していた………! 俺は、それを、小さい時、に聞いて………父さんに、話したんだ………! なんで………」




 悲しい事ばかり、するのって………!




 ショーマ自身の考えだった。


 その考えはアシバの思考を再度停止させてしまう内容であり、思わず首を傾げながら顰めた顔で『は?』と言ってしまうほど、その言葉は理解できなかった。


 何が話しをしないだって?


 馬鹿かこいつは………。


 金目的で行動してんだから、そんなの必要ねーんだよ。


 正真正銘の馬鹿野郎だったのか。


 呆れる溜息を吐いたアシバは、止めていた足を進め、金棒を大きく振るい上げたかと思うと、それを肩に重みをかけるように乗せる。


 どんっと肩に乗せる音を出しながら歩みを進め、逃げることをしないで立ち上がろうとしているショーマの近くまで歩み寄る。


 ショーマの体にアシバの影が重なる。


 まるでそのまま飲み込んでしまうのでないかと言う位置でアシバはショーマのことを見下ろし、ショーマの行動を待ちながらアシバは聞く。


 もう聞くことはない。


 正直このまま頭目掛けて金棒を振り下ろせば、簡単につぶせる。


 簡単に勝てるし、最悪他の奴もショーマと同じように頭を潰してしてもいい。


 だが、それをすることはなかった。


 すればよかった。今からでもそうすればいい。そうしよう。


 ――でも………。


 アシバは思った。


 何故なのかわからない。ただ彼は動くことをしなかった。


 何かをしゃべろうとするショーマの言葉を待っている自分に、内心驚きを隠せなかった。


 攻撃なんてしないで、今まさにこの場であっさり殺せる相手を前にして、何故かそれをしなかった。


 ――なんで攻撃しない?


 わからない。


 ――このままなら簡単につぶせるぞ? どうしてしないんだ?


 わからない。


 ――こいつが言う事なんて馬鹿の一つ覚えだ。頭の良い事をほざくだけだ。聞いても意味ないからすぐに殺すべきだ。


 それは、だめだ。


 冷静な自分の――理性の自分はまさに模範的な言葉を吐いている。だがそれを本能が止めている。


 なぜ止めているんだ?


 なんで俺は………。


 アシバは困惑する。表情は平静を装っているが、内面は困惑と混乱の所為で口腔内に溜まっている唾液が渇いてしまう様な気持ち悪さを覚えながら思った。




 なんで俺は――こいつの話に耳を傾けようとしているんだ?


 馬鹿の言うことだぞ?


 単細胞で、俺みたいな人生を歩んでいない。何の苦労もしていないクソガキなんだぞ?


 そんな奴の言葉に――なんで耳を傾けるんだ?


 困惑するアシバをよそに、ショーマは言う。


 痺れ、常に痛みを訴える体を酷使し、アシバのことを見ようと体の捻るを使い、寝返りを打つように勢いをつけながらショーマは視線を体ごと変え、目の前で固まり、ショーマの言葉を待っている彼のことを見上げて言った。


「小さい時、は………、そこまで、頭も回んなくって、盗み聞きしていたから、絶対に変なことを、言っているって思わ、れても仕方がない………! 今の、俺もそう思う! けど、あの時は………! 本当に、そう思ったんだ!」

「あぁ? 『そう思った』ぁ?」


 なんだ。


 アシバは思った。


 結局こいつは昔から馬鹿だった。


 純粋にそこに入れば幸せになれると思っている馬鹿だ。


 こんな奴がカモになるんだよな。あいつらの。


 そんなことを思いながらアシバは『聞く意味なんてなかった』と理解し、すぐにショーマの言葉を遮って金棒に力を入れようとした。


 した――否、し(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)た(・)。


 だができなかった。


 金棒を持っている手はいつも通り、だが動かそうとしたが、それも億劫になってしまっている自分がいたのだ。


 攻撃しようとする手を緩めてしまう様なそんなものではない。


 まるで――ま(・)だ(・)聞(・)か(・)な(・)い(・)と(・)だ(・)め(・)だ(・)と(・)、本能が告げているような………。


 いいや違う。


 もう聞きたくないから諦めて、そしてこれ以上聞いても無意味だと思ったから、攻撃しようとした。


 こ(・)れ(・)は(・)自(・)分(・)の(・)意(・)思(・)で(・)、ち(・)ゃ(・)ん(・)と(・)金(・)棒(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)腕(・)も(・)動(・)こ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。


 だ(・)が(・)で(・)き(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。


 途(・)中(・)で(・)、動(・)き(・)が(・)止(・)ま(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。


 痛(・)み(・)な(・)ど(・)な(・)い(・)。だ(・)が(・)動(・)こ(・)う(・)と(・)し(・)た(・)腕(・)が(・)、何(・)故(・)か(・)止(・)ま(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)の(・)だ(・)。


 原(・)因(・)な(・)ん(・)て(・)わ(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。た(・)だ(・)自(・)分(・)の(・)身(・)に(・)起(・)き(・)て(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)こ(・)れ(・)だ(・)な(・)の(・)だ(・)。

 

 ――わけわかんねぇ。


 アシバは心の中で舌打ちを零す。


 自分の意思で動けないなんて、気持ち悪いことこの上ない。


 操られているわけではないが、意志に反するというのは本当に気持ち悪くて、もう自分の意思で動かしてくれと思ってしまうくらう、何(・)故(・)か(・)動(・)け(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。


 もう聞こうと思っていないのに、なぜ――?


 ど(・)う(・)し(・)て(・)体(・)が(・)言(・)う(・)こ(・)と(・)を(・)き(・)か(・)な(・)い(・)?


 何が起きているんだ? 俺の身に………。


 自分の身に起きている事態に、アシバは頭の理解が追い付かなかった。


 最初は本当に聞こうとしていた自分にも納得していた。


 どんなことを言うのか聞こうという好奇心もあったのは事実だから。


 だがそのあとは違う。聞く前に攻撃しようとした。攻撃しようとしたのに、体が言うことをきかなくなったのだ。


 動けと思っても、動こうと体に力を入れても動かない。動くところもあれば動かないところもあって、一体何がどうなっているのか頭が追い付かなくなっていく。


 そんなアシバの混乱をよそに、ショーマは続ける。

 

「小さい、俺は………、本当に、頭が悪くて、なんで人を助けようとしている人たちを、捕まえるのかもわからなかった。最初は、警察が間違っているんじゃないのかって思ってて、でも話を聞いて、やっぱり………! 悲しい事をするのって、おかしいって思ったんだ! 変な話だけど………、苦しんでいる人から、お金をだまし取るなんてひどいのに、どうして、取られている人は、幸せそうなのって………」


「滅茶苦茶悲しいって………! 俺は、そう思ったんだ………!」


「みんながみんな、笑っているのに、悲しい事をして………! それで救われるのが、心の底から喜んでいるのが、その集団の、リーダーってのも、もやもやしていたんだ………!」


「救おうと、助けようと行動しているのに、どうしてお金が必要なのかって! あん時………、学校、で、先生に、習ったばっかで、父さんや母さんにも教わったこと、だったから………!」


 なんで。


 アシバは思う。


 少しずつ、少しずつだが体の言う事が効かなくなっていく感覚に違和感と恐怖を覚えつつ、その恐怖と違和感から逃れることができない憤りを感じながらアシバは思った。


 ――なんで動けねんだよ。


 ――さっさと動いてこいつを殺す!


 ――なのにそれができない!


 ――何(・)か(・)変(・)な(・)事(・)で(・)も(・)し(・)た(・)か(・)?


 ――い(・)い(・)や(・)何(・)も(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)!

 

 ――監視している奴が俺の行動に制限を?


 ――いいやそんなことできるのか? 俺(・)は(・)何(・)の(・)タ(・)ブ(・)ー(・)も(・)犯(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)は(・)ず(・)だ(・)。


 ――ここまで何もなかったんだ! 今更起きるなんてありえないだろう?


 ――動け! こいつを殺せ!


 ――殺すんだ!


 ――こいつの馬鹿の言葉を、今すぐに止めるんだ!!


 念じ、念じ、念じ続けるアシバ。


 動け体。まるで漫画の様な状況が今まさに起きている中、アシバは理解できない思考と一抹の恐怖と不安を抱きながら念じ続ける。


 自分の目の前で言葉を放っているショーマを睨みつけ、近くで動いている彼等を無視して、今まさに反撃しようと何かをしようとしている彼女のことを忘れて、彼は目の前のことに集中する。


 それしか頭になかった。


 動けないという恐怖が頭の大半を占めていたせいで、焦りが思考を支配していたせいで。


「辛い人が、いたら………! その人の、隣に座って! 話しを、言葉に耳を傾けてって………! あの時、先生は言っていた………! 父さんたちと、同じことを言っていた………!」


「お前みたいに、汚い言葉を、吐いて………、暴力で、全部、解決しようとしていなかった………! 俺は! メグの、隣で、何があったのか! ただ聞きたかった………! 苦しいなら、隣で座って、話しを聞こうと思った! それしかできねぇから、そうするしかなかったんだ!」


「あいつも、苦しんでいたのは、わかっていたから………! なんとなくだけど、そう、思ったんだよ! あいつも、何かを抱えているって! だから!!」


 告げると同時に、ショーマは前のめりになりながら立ち上がり、そのまま倒れ込むようにアシバの間合いに入る。


 アシバもこれには驚きを隠せなかったのか、そのまま前のめりに、自分の胸に向かって倒れて来るショーマを見て何とか距離を離そうと足を後ろに動かす。


 この時はちゃんと動いた。さっきまでのそれが嘘のように、自分の意思で。


 後ろに引く左足の感覚と、動いていることを視界に入れたアシバは安堵のそれを心の中で吐きつつ、そのまま距離を稼いだ後で金棒を振り下ろすか、自分が持っているチート『マッドドック』を使用するか。二つの簡単な選択を頭の中で天秤にかけた。


 一撃は金棒。


 じわりじわりとならば『マッドドック』の方がいい。


 だが今は悠長なことを言っている暇はない。


 時間を食ってしまったのだ。ここで迅速な行動をするしかない。


 そもそもここは空気が薄い場所――『風獣の神殿』だ。


 空気が薄いところで長時間は戦えない。なら――やるべきことは一つ。


 金棒で殺そう。


 そう思い金棒を握っている手に力を入れ、そのまま振り下ろそうとした。瞬間――


「――っ!?」


 突然来た首の伸び。皮膚が伸びて、千切れてしまいそうな痛みを感じると同時にくる――下あごの痛み。


 同時に押し寄せてきたのは口腔内の鉄の味。


 一瞬の出来事。


 何が起きたのかすぐに理解できなかったアシバだったが、激痛と鉄の味を味わうと同時に聞こえたその声だけは………しっかり聞き取れた。


 聞き取りたくないのに、痛みを優先したいのに聞いてしまったその言葉を……。


「お前の苦しみも! お前が受けてきた悲しみも! 何もかも聞いて受け止めてやるぜぇえええええ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。