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PLAY147 『懺悔の輪廻会』⑥

 それからの記憶はある。だが小学生の芦馬からすればわからないことばかりで、難しい言葉を頭の中で誤変換してしまったりして頭が混乱していた。


 つまり――小学生の彼には理解するには早すぎる内容。


 理解が追い付かない様な内容だったという事。


 成長し、ある程度の知識を得ているアシバなら分かるという事。


 あの時、母方の祖母たちは言っていた。


()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()………!』


 父のことを聞いた時、祖母達は驚きのあまりに手に持っていた湯呑をうっかり落としてしまうほど動揺し、思わず言ってしまった言葉がこれだった。


 父は祖母の言葉を聞いて驚きを通り越して怒りをあらわにしながら祖母たちに詰め寄る。


 誰にも話していない。


 つまり生涯を共にするパートナーに隠していたという事だ。


 結婚する前まで、結婚した後はそんな様子など一切ない――清純な女性だと思っていた父も、こればかりは裏切られたという怒りを露にし、祖母たちにさらに詰め寄った。


『なぜ隠していたんですか?』


 そう聞くと、祖母たちは更に動揺――の中に含まれる恐怖を晒しながら父をなだめようとしたが、火に油を注ぐ結果になってしまい、父はまるで尋問でもするかのように祖母たちに聞いた。


『なぜ隠していたのかって聞いているんです! 答えてください! その言葉が本当なら、芦馬のいじめの原因があいつの所為と言うことになります! 俺のことも裏切った! あなたたちは私達に嘘をついたということになるんですよっ!? どうしてその事実を隠していたんですか!? あいつの頼みだから? まさかこんなことで結婚が破談になると』


 まくしたてるようにどんどん言い放つ父の姿。


 それはもう理性を捨ててしまった感情の思うが儘に動いている人間の姿で、芦馬は思わず怖くなり距離を取ってしまうほどだった。


 アシバはこの光景を思い出し、やっぱりショックだったんだろう。と――今だからこそ父の気持ちが理解できた。


 今まで見てきた母の姿。


 その裏の姿を見てしまったことにはショックしかなかったが、これはほんの序の口だった。


 父の詰問の様な言葉を投げかけられた祖母たちは、震える声で父に言ったのだ。


()()()()………、()()()()()()()


 祖母の声は震えており、まるで何かに憑りつかれて、呪われることを恐れているような声で父と芦馬に告げる。


 何がよかったのか。


 それが理解できなかった芦馬。


 父も芦馬と同じ気持ちだったらしく、その言葉に対して『どうしてなんですか?』と聞くと、祖母はそれ以上言わなくなってしまった。


 蹲り、顔を手で覆い隠しながら嗚咽を吐いて涙を流してしまったから。


 何も言えず、罪悪感に押しつぶされてしまい、何も言わなくなってしまった。


 そんな祖母を見て傍にいた祖父が代わりに父に説明してくれた。


『破談ならよかった』


 それは言葉通りで、このまま結婚しなければよかったと、何年も前から思っていたと。


 そして祖父は続けて言う。


『あの子をあんな風にさせてしまったのは、私達が甘やかしたせいだ。だからせめて、私達の目が届くところに置いておこう。そう決めたんだ』


『あの子は見た目は可愛らしく、素直で無垢に見えただろう? だがそんなことはない。あの子は人が見ていないところで自分が気に食わないと思った子を徹底的に痛めつけた。痛めつけて、精神的にも痛めつけて笑っていた』


『中学生だったあの子にそのことを問い詰めたら、あの子は平然した顔で『なんとなく気に食わない』と言う理由でいじめていたそうだ』


『娘のいじめで自ら命を絶ってしまった子もいた。その遺族にも『お前の娘の所為であの子は帰らぬ人になった』と罵られたが、そんな遺族に対して、あの子は平然と『気に食わなかったから仕方がない』と罵声仕返したんだ』


『狂っているだろう? あの子は狂っていたんだ。異常な子を産んでしまったと家内は悔やみ、自分を責めてしまうほど病んでしまい、私も正直………、あんな子が自分の娘だとは思えなかった』


『遺族に対して罵声下にもかかわらず、外面はいい。最悪だろう? あの子はそうやって生きてきて、そして君と出会い、幸せを手に入れたんだ』


『その時も、私達はあの子に脅された』


『――『絶対にしゃべるな。しゃべったら殺す』とまで言われた。親に殺すなんて、異常だ。あの子は異常だったんだ。だから………君達には本当に申し訳ないと思っている。本当は結婚なんて断ればよかったんだ。これは私達に責任だ。すまない』


 祖父の口から放たれた言葉は、当時小学生の芦馬からすれば衝撃の連続だった。


 彼等が言っていた言葉は真実。


 そして母の裏の顔を知ることになり、子供だった芦馬は何も言えないまま父の怒り狂うさまと、祖父が頭を下げて謝る姿を、目に焼き付けることしかできなかった。


 祖母は手で顔を覆い隠しながら、何度も、何度も――呟くだけ。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 後悔しています。悔い改めます。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 それは自分達への懺悔の言葉だと、この時の芦馬は思っていた。


 だがそれは違っていた。


 口論が激化している最中、祖母の後悔の言葉だけがアシバの記憶に刻まれ、あの時からもう崩壊していたんだと理解してしまった。


 自分達の運命はもう、あの存在に脅かされていたんだと気付いた時には――


 もう、遅かった。


 そして母の真実を聞いたその後――芦馬の人生はどんどんどん底に向かって落ちていく。

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