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13話 リヒトの決意

 多くの貴族はベルリットに数日間留まらなくなったときのために別荘を持っている。

家計に余裕が無いヴァレンティア家には帝都に別荘など持っていないし、他の貴族のように帝都に呼び出される様な事も無いので必要も無かった。

なのでリヒトと両親はトリップス子爵の厚意で彼の所有する物件の一つに滞在していた。

 その屋敷に滞在する間にリヒトの中に一つの考えが浮かんでいた。

ミューラ大将は異邦人で有りながら軍人として功績を上げたから貴族となった。

ならば自分がもし軍人となって手柄を上げたのならばヴァレンティア家の立場が良くなるのではないかと。

リヒトは一晩のうちにベットの中で軍人を目指す覚悟を決めて翌日の朝から調べた。

 トリップス伯爵の書斎には何故か軍法について書かれた本があり、その中の仕官学校の制度が書かれたページには現役の佐官以上、もしくは元将官のいずれかが士官学校へ身元を証明する必要があるとあった。


「サラじゃ無理か……」


 リヒトの脳裏にまず浮かぶのはさらだったが、彼女は現役ではない上に中尉だ。

トリップス子爵も誘われたとは言っていたが軍隊には入っていない。

いきなり躓き諦めかけたリヒトはある人物を思い出した。


「ミューラ大将」


 リヒトも昨日あったばかりの彼が自分にそんな事をしてくれるかどうかは解らないと思っていた。

だが、ほかに選択肢は無い。

 リヒトは直ぐ横を偶然通りがかった使用人に尋ねた。


「ミューラ大将がどこにいるか知らないか?」


ここいる使用人はトリップス子爵に雇われている。

子爵はミューラ大将と親しげだったので、もしかしたら何か知っているかもしれないと思ったのだ。


「えーとミューラ将軍の公邸なら、この直ぐ近くに有ったはずですが何処かまでは存じ上げません」


 リヒトは答えを聞くと直ぐに庭にでた。

裏口に回り木のドアを開けるとそこには小柄な少年が膝を抱えて座っている。

 顔を上げた少年の髪は汚れ過ぎて元の色が何か解らなかったがその目は綺麗な青色をしていた。

彼はこの数日間、リヒトの話しを聞く相手となっている少年だった。

 物乞いをしいた彼にリヒトがこっそりと裏口に招いてパンなどを与えていたら、一日の殆どをこの屋敷の裏口にいるようなった。

 だが、必ずしも食料目当てでも無いようでリヒトがパンを差し出しても受け取らない事もあった。


「なあ、ミューラ将軍の公邸ってどこか知ってるか?」


 少年はコクリと頷き歩き出した。

彼は殆ど話さない、リヒトが何かを聞いたときも首を縦に振るか横に振るかで自分の意思を伝えていた。

 リヒトは彼についていった。


*****


リヒトは少年の案内で無事にレンガ造りの公邸にたどり着いていた。


「ミューラ大将にリヒトが来たと伝えていただけませんか?」

「僕、ココは君がうろつく場所ではない。

とっとと帰り無さい」


 門番に相手にされなかったのだ。

ミューラに一目でも会えれば事態は進むのだが、当然彼は建物の中で、そこまで無事に進入するのは不可能に近い。

もし、塀を乗り越えようとした日には公邸を警備する兵士達にうち殺されてしまうだろう。

リヒトが途方に暮れていると、馬車が止まった。

 その中から一人の男が降りてくる。


「シュトルフ将軍」


 リヒトはその名前を呟いた。

クラウス・フォン・シュトルフ上級大将、統一帝国の英雄で世界に名だたる戦略家である。

 シュトルフはリヒトの目を見ると言った。


「舞踏会で揉め事を起こしていたな、ヴァレンティア家のリヒトだったか」


 揉め事を起こしていたという言われ方は一方的に絡まれた上婚約者を殴られたかけ、最終的に自分自身は実際に殴られたリヒトにとっては心外だったが素直に頷いた。


「ケント貴様に客だ」


シュトルフの次に馬車から降りてきたミューラはリヒトを一瞥すると口を開いた。


「よく来たね、まあ中に入りなさい」


 公邸と言えども一応は軍事施設である。

 その軍事施設に親戚の子供を家に入れるような気軽さでリヒトを入れようとすミューラに兵士達は戸惑いながらも門を開け始めた。


「ごくろうさま」


 ミューラは兵士達に気さくに声をかけて、シュトルフは無言で扉を潜り中に入る。

リヒトもその後についていく。

ミューラは正面の階段を上り廊下の一番奥まで進むと正面の部屋のドアを開け放った。

 最後に入ったシュトルフが部屋の扉を閉めた。

すると、部屋の床からさまざまな色をしたマナが沸きあがり部屋中の壁を走り抜けた。


「こうしている内は、部屋の音は外に聞こえないし。

そこの、窓からも中は真っ暗に見える」


中には長机とイスがあり、ミューラは一番奥のイスに座るとリヒトに正面の席を手で勧めた。

シュトルフは勝手に座り飾ってあったワインをガラス細工の観賞用グラスにそそいで飲み始める。


「最初はお小遣いでもこっそりねだりに来たとでも思っていたがそうでは無さそうだ。

さて、何の用かな?」


リヒトは息を飲むとミューラを見ていった。


「仕官学校に対して私の身元を保証していただけませんか?」

「ほう」


 ミューラの顔は変わらなかった。

だが、声色が僅かに真剣なものに変わった。


「何故?」

「家と領民のためです」

「なるほど、君の考えは正しい。 君が統合陸軍の一員として戦えば確かにヴァレンティア家は権威を取り戻すだろうね」


ミュラーはそこで一度言葉を切った。


「だが、身元保証は推薦と同義だよ。

もし君が士官学校で悪い成績を収めた場合は私の顔は丸つぶれだ

何より、御両親の了解を取らずにそんな事をすれば私は裁判にかけられるかもしれない」


ミューラの言葉に肩を落とすリヒトに思わぬ所から援護射撃が入った。


「考えもせずに拒否とはお前らしくも無い」


ワイングラスを空にしたシュトルフ将軍だった。

ミューらはアゴに指を当てて少し考えるしぐさをすると口を開いた。


「確かにリヒト君は魔術に関しては異常なほど物覚えが良いらしいから、頭が悪いわけでは無いんだろうね。

しかし、戦争では常に相手の意図を読み、些細な隙にも付け込まなければならない」


 ミューラがキセルを取り出し口にくわえた。

彼としてもリヒトへの気遣いで出来るだけ我慢していたがついに限界が来たのだ。

 物体に熱を与える赤色のマナが集まりキセルから煙が出た。

ワインを嗜んでいたシュトルフは不快そうに眉を寄せる。


「まあ何がともあれ、ご両親と話をする事だ。

許可が取れたら、その時は検討しよう」


 何とか可能性が繋がった。

その事実にリヒトは背もたれにへたり込んだ。


「あさって、ここにおいでサラを連れて来れば間違いなく通れるはずだ」


ミューラはそう言うと話は終わりとばかりに席を立ち部屋を出た。

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