14話 ミューラの問題
リアルで忙しく更新が遅くなりました。
二日後、オットーに話をつけサラと共に公邸を訪れたリヒトは二日前と同じ部屋に案内された。
長机の一番、奥の席には軍服を着たミューラがすわり、その斜め前の席にはシュトルフが座ってワインを飲んでいる。
二日前とは違いシュトルフは軍服を着ていない。
「私の事は気にするな、傍観者としてここに居る」
リヒトと目が合ったシュトルフは言った。
それは、二日前のようにリヒトに助け舟を出さないと言う宣言だった。
「座りたまえ」
リヒトは進められるままにミューラの正面の席に座る。
サラは前には進まずドアの直ぐ横に控えている。
リヒトが座ったのを確認したミューラが手元に置いた鈴を一回鳴らすと、すぐさま部屋の外から若い士官が入ってくる。
仕官はリヒトの前にトランプほどの大きさにカットされた五枚の紙と羽ペンを一本置いた。
「さて、リヒト君そこにある五枚の紙の両面に適当な文字を書いてくれ。
ただし、同じ文字を二回書かないように」
リヒトにはミューラがこのような事をやらせる意図は全く理解できなかったが、彼は言われた通りに文字を適当に書いた。
ミューラは仕官に紙を持ってこさせると人と通り目を通して仕官に返す。
仕官は紙を受け取るとそのまま部屋の外に出て行った。
「君はこの国の軍事的脅威はどの国だと考える?」
「一番の脅威は北方のラティーシア帝国だと考えます
次に南方のケルティア共和国」
ミューラの唐突な質問にリヒトはリーゼベレクの一般的な回答をした。
リーゼベレク統一帝国には公式には三つの隣国が有る、北のラティーシア帝国、南にケルティア共和国、そして西のフィニス共和国。
フィニスとケルティアは同じ共和国では有るが中身はまるで違う。
フィニスでは議会の議員は国民の投票によって選ばれる完全な民主主義、それに対してケルティアは国土を治める家があり、その家が代々子から息子へ議会の議席も写っていく。
「ノールリーケは?」
リヒトはミューラの言葉に驚きを隠せなかった。
ノールリーケはエルフ達の王国で現存する唯一の非人類国家だ。
しかし、他の国は人類以外は国家を組織しないというイデオロギーの元でノールリーケを国家としては認めていない。
それは統一帝国も例外では無く、ミューラの発言は統合陸軍の大将としては政治的に不適切なものだった。
どう答えるべきか迷うリヒトにミューラは諭すように行った。
「軍人はイデオロギーによって脅威を大きく見積もって小さく見積もってもいけない」
「ノールリーケは統一帝国やラティーシアを含む五つの国と国境を接しています。
もしどこかに国に進行すれば人類の脅威であると言われ他の国家から進行を受ける事は明白です」
「同感だな、彼らが合理的に物事を見ればだが」
シュトルフが条件付でリヒトに賛同した。
「ふむ、大方私も同じ見解だ」
ミューラがそう言ったと同時に部屋の扉がノックされ、先ほど出て行った士官が五つの箱をトレーの上に載せて入ってきた。
そして、仕官は五つの箱をリヒトの目の前に並べる。
「さて、リヒト君
その中には君がさっき作ったカードが一枚ずつ入っている。
君がその中のカードが表か裏か全て当てられれば私は君の望みをかなえよう」
「こんなギャンブルで」
ミューラの余りにもいい加減な決定方法にリヒトの口から無意識にその言葉が漏れた。
「ギャンブル?これはそんなに難しいものでは無い
簡単な問題だよ」
「簡単な問題?」
ミューラは説明を求めるリヒトの視線を気づきながら無視した。
彼にとってはこれが最大のヒントであり、これで課題をクリア出来ないようなら、リヒトを統合陸軍に必要ない人間だと思っていた。
リヒトは直ぐに表か裏かを当てるには何か方法が有るはずと箱をよく監察するが何の変哲も無い普通の木箱だ。
次にリヒトはミューラの発言を部屋に入ってから回想するとあることに気がついた。
ミューラはリヒトに紙に文字を書かせたとき一回も表や裏と言った言葉を使っていない。
それに気がついたときにリヒトは問題の答えにたどり着いた。
「この箱の中身は全て表です、開けるまでもありません」
これで自分の答えは正解だったのだろうか?
リヒトの不安を見ながらミューラは表情を変えないまま言った。
「素晴らしい、百点満点の回答だ」
シュトルフも面白そうに笑う。
「師匠説明を?」
未だに問題が解けていないサラが言った。
ミューラは面白そうに微笑むと言った。
「その中に入っている『カード』の材料は私が用意したが両面に文字を書いて作ったのはリヒト君だ。
彼が作ったのだから裏表の決定権は彼にある」
それこそがミューラがリヒトに作ったほんの僅かな隙だった。
もしどちらを表にするのか裏にするのかを尋ねれば、どちらが表か裏かミューラに指定されてしまい、1/32と言う無謀なギャンブルに挑む事になる。
「リヒト君、四年間勉学に励みたまえ。
幸い君には最高の家庭教師がいる」
ミューラは席から立ち上がりながら言った。
最高の家庭教師とはサラの事だろう。
彼は席を立ちサラの直ぐ横まで行くと耳元でささやくように聞いた。
「ヴァレンティア伯爵は何時まで帝都に滞在するのかな?」
「明後日の朝に此方を立つ予定です」
サラも出来るだけ小さな声で答える
「何が有ってもその予定を変えない様に、私の名前を出しても良い」
「理由は聞かない方が良さそうですね」
ミューラはサラの返事を聞くと部屋から出て行った。




