表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

11話 トリップスの陰謀論

 戦争開始から5日後の741年秋季第4の月2日トリップス男爵はヴァレンティア家の屋敷を訪れていた。

 彼がここを訪れた理由は一言オットーに伝える、それだけだったが伝える事が事だけに手紙では失礼だと考え彼は直に言う事にしたのだ。

客室まで案内されたトリップス男爵は座ると前置きもせずに本題を伝えた。


「ヴァレンティア伯爵、貴方のご子息と娘のティアナの婚約を正式に結びたいと思います」

「解りました」


 オットーは何時もと変わらない様子で答えた。

その表情にトリップス男爵は肩の力を抜き、オットーに何か世間話でも振ろうとしたとき唐突にオットーが呟いた。


「今回の戦争いつから新聞社は知らされていたのでしょうな?」

「ヴァレンティア伯爵、それはどういった意味です?」


 トリップス男爵はオットーが何を疑問に思っているかを知りながら敢てとぼけた。

だが、その態度に少しだけオットーの穏やかな目に鋭い眼光が宿った。

 何か知っているそう確信をもたれたのだ。


「いえ、あの記事の書き方だと当日ローヘンで起こる事を知っていたように思えるので」


 この世界にはまだメールも電話も無く情報を即座に伝える手段が無い。

一番早い情報の伝達手段は鳩に手紙を持たせて飛ばすいわゆる伝書鳩だったが、それを使ったとしても帝都ベルリットまで二日はかかり、ベルリットからローヘンまではそれ以上の時間がかかる。

 どうあがいても、新聞社はその情報を手に入れる手段が無いのだ。


「これは私の推測いえ最早妄想に近いものですが。

今回の記事は国に書かされた物では無いかと思っております」

「理由をお聞きしても?」

「あの記事の中身で保安警察がローヘンにおいて不穏分子を摘発しているという一文がありました、あれは各国がローヘンにスパイを送り込んだ時に容赦なく摘発すると言う警告に思えるのです。

もし、私の考えが会っているなら我が国はローヘンで探られたく無い者があるようです」


 トリップス男爵の得ている情報はオットーと対して変わらず彼の考えを裏付ける証拠は無いに等しい。

だがその言葉は自分の脳内だけで妄想を作り上げ、その妄想を成り立たせる為に都合の良い事実を都合の良い様に解釈する陰謀論者とは違っていた。

 彼は一時は統合陸軍の一員で有ったし、国家の中枢にいるある人物とも奇縁があり、国家の指導部がどのような考えで動くか、どのような手段を好むか、各組織がどんな性質を持っているか良く知っている。

彼の言葉には証拠は無いが根拠は有った。


「それで、国内の新聞社にも同様の命令は出ていると?」

「恐らくは、もう一つ付け加えるとすれば統合陸軍も保安警察も非常に縄張り意識が強い組織です。

両方に強い影響力を持つ人間が指揮を執りでもしない限りは共同作戦など出来るはずが無い」

「そのような人物に心辺りが?」


トリップス男爵は頷いた。


「ええ、彼……彼らがその気になれば十分に可能です。

しかし、彼らはあるお方の命令を受けない限りは自分で動き出すとは考えにくい」


オットーはそれっきり黙りこんだ。


****


741年秋季第4の月8日ラティーシア帝国南部(リーゼベレク統一帝国北部国境)

 そこは三日前まではなだらかな丘が続く穏やかな草原地帯だった。

 今は南側にはリーゼベレクの北側にはラティーシアのそれぞれの陣地が築かれていた。

 砲声が何度も何度も響きわたり両軍の兵士に砲弾が降り注ぐ、その中兵士達は的に近づき銃弾と魔術を浴びせあう。

 人間の命が一秒当たりにダース単位で失われていく。

リーゼベレク統一帝国きっての名将シュトルフとその周辺に待機する将校達は見慣れた光景を冷めた目で戦場を見ていた。


「閣下、ミューラ大将よりご報告です」


伝令兵が小走りでシュトルフの元まで走ると立ち止まり敬礼しながら言った。


「聞かせろ」


 ラティーシアの南方に置ける主要な軍事拠点は高い生産力を持つ都市『ミールロスク』と武器弾薬が豊富に蓄えられている『シフィロフ』の二つだけだった。

 これの攻略のためシュトルフは奥にあるシフィロフの攻略を優先しミューラに奪わせたのだ。


「第三軍団はシフィロフの攻略に成功。

これを察知した敵軍十万がシフィロフの奪還を目指して動き出したもよう。

兵力差は3倍以上につき」


 シュトルフ以外の将校は全て続きに来る文章は『撤退許可をこう』と思っていた。

しかしその予想は見事にはずされた。


「都市の防衛に固執すればわが軍に多大な損害が予想される、よって敵軍の壊滅を目標とした積極的な迎撃作戦の実行許可をこう」


 他の将校が驚きにとらわれていた。

 防衛側は迎え撃つ準備を十分にすれば有利に戦える、三倍の敵を撤退に追い込めるかは怪しくとも本軍が到着するまで持ちこたえるだけならさほど無謀でもない。

 しかし、ミューラの積極的な迎撃作戦とは敵軍に対する攻撃と同義語だった。

許可されるはずがないと思っていた将校たちはシュトルフの言葉にさらなる驚きを覚えることになる。


「第三軍団司令官ミューラ大将へ伝達せよ

許可すると」

「はっ」


741年秋季第4の月12日ミューラ大将率いる第三軍団は10万を超える敵軍の撃退に成功。

 十日後の冬季第1の月2日にはシュトル上級大将率いる第一軍団、第二軍団を主力とする本軍はミールロスクを占領した。

その日を持ってシュトルフ上級大将は『ベルリットの行進作戦』の成功を宣言した。

 戦争を開始した時は外務局も保安警察も統合陸軍も南方における二拠点を取ればラティーシア帝国は講和会議に応じる物と予想していた、

だが、ラティーシア帝国は統一帝国の国家指導部の予想を裏切り戦争の継続を選択。

 翌年の春には陸軍総司令部はラティーシアに対する全面攻勢を夏季第一の月中に行う事を決定するが、外交局の妨害にあい作戦が実行されたのは742年秋季第1の月10日だった。

 シュトルフの指揮により統合陸軍は二が月後には敵の首都メセキアまで僅か2万ファーベリ(24km)の距離まで迫るものの、その頃には雪が積りだし補給が途絶え始めた統合陸軍は厳しい戦いを強いられ、シュトルフ率いる中央部隊が敗北すると戦線は総崩れとなった。

統合陸軍はシフィロフまで奪還されるもミールロスクだけは守り抜き戦線は膠着。

 統合陸軍が占領するミールロスクで講和が成立し、ローヘンは統一帝国の物になったが賠償金も何も取れず統一帝国が得た物は失った物に対して余りに小さ過ぎ、このことは『紙の上での勝利土の上での敗北』と皮肉られる事になった。

本当は戦争のシーンも書くつもりだったのですが、小説の構成上省きます。

後々、外伝のような形で書く予定です。

8/04文章訂正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ