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10話 開戦

 帰りの馬車でリヒトは外を眺めていた。

ヴァレンティア家の領地では窓の外には畑が永遠に写るばかりだったが、ここトリップス家の領地では活気ある街が続いている。

当然、バレンティア寮にも街があるが個々とは比べ物にならない。

 ここまで領地の発展に差が着いた理由はバレンティア家が元々は騎士の家であり、領地から収められる税金よりも王家から騎士にの役職の報酬を収入源にしていたのも有るが、何より大きいのは統一戦争で皇帝に着いたかどうかも大きいだろう。

 統一戦争で皇帝に逆らった貴族は領地を取り上げられ、その土地は皇帝に味方した貴族に与えられた。

トリップス家は報酬として与えられた港町を褒美で与えられた金銭を使い拡張した上で、街道を整えた。

かくして、この地方一帯の商業の中心地となりこの街は栄えた。

何もかもがヴァレンティア領から程遠い町並みからリヒトは一つの店を見つけた。


「サラ、あれって……」

「ええ、魔術に使う素材や道具の専門店ですね」

「見に行きたい」


 どうしましょうとでも言うようにサラがオットーの方を見た。

オットーは苦笑気味に笑いながら首を縦に振った。

 サラは御者に合図を送り場所を止めさせると、リヒトは駆け出した。

リヒトは店の前に並べられている商品を見ていく。


「おう、坊ちゃん魔術に興味があるのか?」


店主らしき男が友好的な笑顔を浮かべてリヒトに話しかけてきた。

男が浮かべた笑顔は客を出迎えるそれではなく、大人が背伸びをしている子供に向けるものだった。


「これは?」


リヒトは一本の剣を手に取った。

 その剣の刃の長さは60センチほどの片方にしか刃が着いておらず、刀身が分厚い上に細かい溝が入っている。


「ああ、それは軍の武器だ

何でも剣一本に着き一つの魔術が瞬時に使えるんだと」

「ええ、この中には術式とゲートが仕込まれていますから」


 術式とは魔術における電気回路のようなもので、術式の中に入ったマナは術式によって定められた通りに動くと言った者だった。

 提唱されたその時は多くの魔術師が魔術発動の手間を減らす、魔術を自動化する、の二つの目標に向かって研究を進めたがそれもたったの数年だった。

 魔術式では人間が可能とすること以上の事は出来ずに、一般的な魔術師が十秒でこなせる魔術を術式によって行おうとしたとき、術式を作り上げるのに十日かかるとも言われていて余計に手間がかかり。

 魔術の完全な自動化についてはゲートを開いてマナを取り出すのは魔術師無しでは不可能で、よって魔術の完全な自動化も不可能と結論付けられた。

 こうして、術式の研究は殆ど行われる事が無くなっていった。


「これは何の役にたつんだ?」

「一つはゲートを術式に組み込めたところに有ります、これは使い手の技量を上回る魔術の行使を可能にしました」


 魔術とは本質的には10種類のマナを物体に付与して物質の状態を変える事をさすので少しだけ複雑な事象を起こそうとすると複数のマナが必要になることがある。

この時の方法は2つで。

 一つは複数のマナを同時に出せるゲートを使う。

しかし、このゲートには季節や時間を始めとした様々な条件が必要とされることが多い。

 だが、複数のゲートを維持するのは難しく2つのゲートを同時に維持できれば魔術師として一人前、それが3つでも出来たなら一流と言われている。


「もう一つは簡単に兵士が確保出来る事です」


 そう言ったサラの顔は忌々しげだった。

リヒトはサラが何故そのような表情をしているのか心当たりが有った。

初期の銃よりは弓矢のほうがはるかに優秀だった。

しかし各国が力持ち始め、戦争が長期化かつ大規模化するにつれて弓兵は不足するようになる。

 一方で銃歩兵はその動作ゆえに訓練が短く済み数の確保が簡単だった。

即ち使い捨てにしても幾らでも補充が利く銃が弓より優位になっていったのだ。

 この剣は向こうの世界の銃同様に訓練に時間が掛からず使い捨てに出来る魔術師を確保するために作られたのだ。


「フライシャー8ですか懐かしい」


サラが剣を手に取って言った。


「知っているのかい?」


店主が身を乗り出して言った。


「ええ、734年に軍部がテストをする前に配備を決定し大量に作りましたが、これを使えるだけの魔力を持った魔術師が少ない事が判明して配備計画は中止、その多くは民間に払い下げられたと聞いています。

それも、この一本でしょう」


 男は感心したような顔をしながらしきりに頷いて話を聞いている。

その反応に気を良くしたのかサラは少し得意げな顔になり話を続けた。


「魔術師への負担、すなわち魔力の要求量が増えた理由は……」

「号外だよー、号外。

ラティーシア帝国と戦争に成った、詳しくは新聞を買っておくれ」


 しかし、その言葉は通りをかけていく新聞売りの男に声によって止められた。

サラの表情は凍りつき唇だけ凍えた様に震えている。

 彼女が恐れていた事がついに事が起きたのだ。

オットーは呼び止めると新聞を買い目を通す。


「貴族のだんな、俺らは読めねえ。

何が有ったのか聞かせちゃくれねえか?」


 あまり育ちと身こなしが良くない男が夫に話しかけた。

この世界では既に活版印刷などの技術も一般的に使われるよう成っていて、文字だけの新聞もあったが字を読めるものは少なかった。

オットーは新聞を大きな声で読み上げる。


『本日、教会暦741年秋季第3の月17日

 統合陸軍はクラウス・フォン・シュトルフ上級大将率いる北方軍集団並びに全土保安警察の職員がローヘン地方に進駐を開始したと宣言。

二日前のローヘン地方でラティーシア帝国による民兵を使った卑劣なる国民への攻撃に対しわが国は民兵の撤退を要求したがかの国はこれを拒否。

これを踏まえ皇帝陛下は既に平和的解決への道は閉ざされたと仰せになり、開戦を判断された。

 既にローヘンは統合陸軍が進駐を完了し民兵は無力化され、保安警察によって不穏分子の摘発が開始されている。

なお北方軍集団はラティーシアに近々攻勢をかけると思われる

統一戦争から様々な戦華と数々の栄光を築いた我らが英雄シュトルフに率いられた勇敢なる統合陸軍の兵士達は祖国に栄光をもたらしてくれる事だろう。』


「やっと、始まったか最初からこうすりゃよかったんだ」


聞いていた誰かがボソリと言った。

それに同調する声が次々に広がっていく。


「そうだ、蛮族共に目に物見せてやれ!!」

「祖国万歳!!、大帝ジークベルト万歳!!」


 街の窓からはリーゼベレク家の紋章が刻まれた統一帝国の国旗が次々に出されていく。

中には軍人の家も有ったのか国旗と共にリグフィエルの軍旗を窓から出す家も有った。

 戦争が始まると言うのに人々の顔に悲壮な色は一切無くむしろ歓迎するような空気であった。

前世を持つリヒトの目には異様に映ったが、それでもこの国にとっては正常な事なのだ。

 そんな中でサラは静かに跪いて祈った。


「御使いよどうか兵士達に加護を」


 この日にリーゼべレク統一帝国はラティーシア帝国に対して、民兵による民間人への攻撃に対する報復を理由として宣戦布告、翌日には周辺諸国に対しても開戦を宣言し第一次リーゼベレク=ラティーシア戦争が始まった。

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