族長の旅
族長の旅
温泉を出て、族長は屋敷に入った。
角間の里は、族長の指示なしでも動いていた。
屋敷には、真と沙羅がいた。孫もすでに青年になっていた。
「皆に話したいことがあって来たんだが、話せるかな」
沙羅が優しい声で答えてくれた。
「何でしょうか?真も私も落ち着いたところです」
真も頷いていた。
「移動するのではなく、暫く旅に出ようと思う。上田盆地の国府が移ったらしいし、落ち着かないから、自分の目で、伊勢とか奈良を見ておきたいんだ」
引退でも言い出すのかと思っていたら、族長らしい言い方に、皆も納得した。
自分の小屋には、妻がいて、彼女にも言って、翌朝、出発した。
上田盆地に降りて、千曲まで出て川を渡り、山に入って安曇野に出た。
松本に着くと、国府の移動があって、人が騒がしく動いているようだったが、諏訪を抜けて、伊那に着いた。
そこから山に入り、簡易テントを作って休んだ。
翌朝、山を抜けて、愛知に出た。
昔聞いていたよりも古墳が目立ち、豪族だろう屋敷が点在していた。
愛知に入ってゆっくり歩いていたが、海が見えてきて、それから山に入り、鈴鹿に抜けた。
大分と気候が暖かくなっていた。
何本かの川を渡り、伊勢に到着した。
宮川を渡る橋が架かっていた。
族長は驚いた。橋がかかってる。
宮川のキラキラした清流は相変わらず綺麗だった。
大巫女の神殿へと思ってると大きな赤く塗られた二本の大木を結ぶ二本
の朱塗りの木が渡っていた。
これは、何だと思った。
白い砂利道が続いていた。
今度は大きな扉があった。
警備の兵に、小矛を見せると、
「我は、浅間山に属している移動するグループの一人だ。茅をお持ちして、大巫女様に奉納に来た」
警備は確認し先に通した。
白い着物を着た侍女らしきものが案内した。
族長は、緊張して従い中に入った。
大きな祈りの間のような場所の奥の部屋に案内された。
外で次女が伝えた。
「お客さまです。大巫女様」
「入れ」
中から大きな声で促された。
侍女が扉を引いて開けた。
中に小さなふくよかな女性が座っていた。
「浅間山の森に属していたものです。茅をお持ちしました。」
「浅間山とか、あそこは、火が入り人が住めぬと聞いていたが、、、」
「はい、角間という上田盆地に近い場所の山奥の移りました。」
そうか、よう来た。苦労してるなと労い。小矛を指して我らは感謝しているのだと言った。
近畿圏の勢力がヤマト政権となって国分寺や国府を建てられていたが、上手くいってないと感じてると伝えると
「あんな海の向こうの宗教は、真似事じゃ、上手くいかないだろう。でも知られることは成功したな」
「何をですか」
「ヤマト政権じゃよ」
確かに目立つ建物であったな、しらせるか、、、族長は納得した。
尼のことは気にしないなと感じた。
これから、隠れて暮らすことを伝えた。
「仕方がない。我も黙っておこう。しかし、その小矛は、持っておれ」
大巫女は悲しそうな顔をしたが、笑って送り出してくれた。
竹林の笹の音がカサカサと響いていた。




