族長と沙羅
族長と沙羅
族長は、上田盆地の山奥の角間の集落に向かい、山を進んでいた。
木々の間からこぼれる日の光を感じながら、谷を登り、獣道に入り、さらに登った。
山の上の平ら部分の広場で老人たちが茅を編んでいる。
あれ、子供がいない。と思っていたら、屋敷から子供たちの笑い声が聞こえていた。
族長は、老人たちに挨拶して、屋敷を覗いた。
屋敷内では、付き添いの娘と沙羅が、子どもたちに字を教えていた。
白い紙みたいに字を書く子どもたち。
これはどういうものだと思った。
「沙羅様、ただいま戻りました。この白いのは、なんですか?」
沙羅が気が付き、挨拶を返し、返事をした。
「これは木の皮を叩いて伸ばしたものです。便利ですよ」
族長は感心した。
沙羅は我らに田んぼのことばかりか、色々なものくれると感じた。
この集落の話もせねばと感じた。
外を見回り、自分の小屋に戻り、日が沈むのを待った。
自分の小屋で夕食を済まし、息子を連れて屋敷に入った。
「沙羅様、色々子供達のためにありがとう御座います。私は単独で長野盆地や北陸、諏訪を回って参りました。」
沙羅は、一人で何をしたのか分からなかった。
「そんなに遠くに何されに行ったのですか?」
族長は、笑いながら伝えた。
「我らは移動するグループとして、大分と昔から、拠点の暮らしをしながら北陸や諏訪を経由するものなのです。」
どういう事か分からなかった。
「移動するもの?とは、どういうものなのでしょうか」
「ものや情報の交換をしているんだ。昔からの我らの仕事の一つだ」
昔からの仕事とは、なんだろう。
沙羅は、今の米作の集落が広がる前に、暮らしていた人々がいた事に思い当たった。
「米作が広がる前から、、、ですか?」
族長は、頭の良い子だと感じた。
「分かるのか?まぁ良い。我らの体の中にある仕事なんだ。それで春日井や諏訪、そして佐久平を見てきた。」
沙羅は、族長の深さに感心した。
「我らは、結果的に豪族になるしかないと思う。だが、我らは隠れる事で、周りに左右されずに豪族になる必要があると思う」
沙羅は、それは賢い方法だと感じた。
「族長のいう事に賛同します。私も力になりたいです。」
族長は、大きく頷き、沙羅に言った。
「こちらにに来て暫く経った。息子をどう思う。」
沙羅は突然、何だろうと思ったが、息子には期待以上に動いてもらったと思っていた。
「沙羅は息子と結ばれたら良いと思う。どうだ。」
沙羅は、そういう事かと納得して思った。
「私は、族長の家族になりたいです。よろしくお願いします」
と、沙羅が返した。
族長は、息子に向かい言った。
「お前は、今日から、《真》と名乗れ、そして沙羅と結ばれるのだ」
息子は、素直に受け取って、ハイと大きく頭を下げ、沙羅を見た。
月が大きく光る夜だった。
風のない静かな夜。
屋敷の部屋で松明が、四方に光を差していた。




