婆様
婆様
それは弓を使う森の住民だった。
脅したのではなかった。からかったのだ。
キツネを担ぐと弓を持つ男は、森の奥へと歩いた。
移動するグループのリーダーも続いた。
すると大きな岩が重なるように立っている。
その隙間の穴に入って行った。
穴にはいると、床が固められていて、滑らかだ。
すぐ先に岩を丸く組んだ炉があり、火がついていた。
目が火の明るさに慣れ、奥が見えてくると先ほどの弓を持った男がキツネを捌いていた。
と、気が付くとボォっと見えてきた。
婆様だ。
リーダーが挨拶し、婆様が答えた。
「そいつが新しい仲間か。
顔つきは、海の向こうのものだな。
ふーん、賢そうじゃ。」
すると、グラグラグラっと揺れた。
「これは何でもない、山の深呼吸のようなものじゃ。安心せい。」
婆様は俺に語っているようだ。
俺は、人かと聞いてしまった。
は、は、はと笑う婆様。
「気にするな」
ひと言だった。
弓を使う男が捌いた肉を串刺しにして、火の上に焚べた。
ジューっという音と香ばしい香り、広がる。
弓の男が水を器に入れてリーダーや俺に配った。
飲むとすごく冷たい。美味い。
リーダーが袋から石を出して婆様に渡した。
「八ヶ岳の者と、諏訪の巫女から、変化があったら知らせてほしいと言ってきた。」
婆様は岩を受け取り、続けた。
「諏訪から?ほう、今年は大丈夫だよ。2年か、3年後か大きな噴火が来ると思う」
噴火があるのか。
ゆっくり説明してくれた。
浅間山は噴火して火が立ち上がるらしい。
その時の灰は、森や先ほど通ってきた佐久平にも及ぶらしい。
森や人をどうするのだ。
揺れは大きいらしい。
翌朝、弓の男が猟を手伝ってくれと言ってきた。
「狼が、何匹か向こうから来る。
その群れに、陰から飛び出て脅してくれ。一匹は来ると思う。殺れるか」
おれは、一匹ならと、答えた。
よし、では頼むと言われ、木の陰に隠れた。
狼が群れで、やってきた。
弓の男が消えた。
狼が迫る。
俺は、木の陰から、ワーッと飛び出した。
狼の群れがバラける。
一匹が右側から俺に向かってきた。
俺はナイフを狼の首筋を狙い切り裂いた。
左側に逃げた一匹が、急に倒れた。
もう一匹が倒れる。
弓の男が木の上から弓を打ってる。
もう一匹、倒れる。
狼は、倒れた仲間を見て、逃げ出す。
「はあ、上手くいった。」
弓の男が木から飛び降りて来る。
全部で4匹。
よしよしと弓男が、狼の足を持ち上げ、首をきり裂き血抜きを行い始めた。
そして次々に木にぶら下げて血抜きを始める。
俺も、自分で仕留めた狼の血抜きをした。
山を少し下った所に大きな木を背にした小屋が二つあった。
小屋の前で石で囲った焚き火を始めた。
俺は弓男に聞いた。
「いつも、やってるのか?」
「お前の身体を見てやれると思った。あいつら煩いと思っていたんだ。助かったよ」
思いつきか、彼らは自由なんだなと感じた。
小屋の中から女や子供達が出てきた。
鍋にスープらしいものがあり、焚き火にかけた。
石の上では、肉を捌く、切り身を分けて、小屋の中に持って入り、残りは火にかけていた。
移動するグループの皆も入って食事が始まった。
俺は、森の暮らしを見ることが出来た。
彼らは感性で生きているんだと感じた。
浅間山から戻ることになった。
佐久平を抜け、八ケ岳へ、そして諏訪に戻った。
それぞれに、浅間山の婆様からの伝言を伝えた。
移動するグループと巡り、情報の交換が大事なのだと感じた。
森の暮らしも見られた。
俺は、移動するグループの仲間になる事を決めていた。
諏訪から谷間を北上しながら、空を見上げた。
青空に白い雲、風が吹き上がって来る。
夏が終わるんだと感じた。




