↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漂流者  作者: 熊さん
第4章:豪族の世界
PR
49/68

夫婦古墳

夫婦古墳



森にいた海彦は、族長と二人、大きな揺れに耐えていた。

二人は狩りの最中だった。


森の民の族長は、移動するグループを率いている。

今日は、海彦と族長が顔を合わせる貴重な日であった。

二人は会えば狩りをし、互いの絆を確かめるのが常だった。


揺れが収まると、二人は顔を見合わせた。


「最近、揺れが大きいな。どう思う」


「桜婆様は、噴火はまだ先だと言っていた。

 いまは千曲川の流れに気をつけているらしい」


「噴火は……あるのか」


海彦は、佐久平と浅間山の厳しさを噛み締めた。


獲物を担ぎ、山を降りる。


海彦は美和に話した。


「噴火はあるようだ。族長たちは川の動きを見ている」


美和は静かに頷いた。


「寒い日が続き始めたわ。長や管理者には、水の出入りに気をつけるよう伝えてある」


二人の表情は自然と険しくなった。


佐久平では豪族化が進んでいた。

米は不作が続いていたが、それでも人々はなんとか暮らしをつないでいた。


その時だった。

ドカン、と大きな音が佐久平中に響いた。


浅間山は赤く染まった噴煙を噴き上げ、空は暗くなり、灰が降り注いだ。

時折、大きな石が落ちてきたが、人々はただ耐えるしかなかった。


御影新田の神殿では、祈りが続けられていた。

各集落は小屋に閉じこもり、ゴゴゴッという噴煙の音だけが響いていた。


浅間山の桜婆様がつぶやく。


「試練は続くぞ。川の氾濫が起きるはずじゃ」


森の民の族長は千曲川の上流へ向かった。

歩くたびに、崩れた斜面や変わり始めた川筋が目に入る。


《やはり、桜婆様の言う通りだ》


上流を確認した族長は下流へ戻り、佐久平に入った。

平らな大地に小屋や屋敷が点在している。

長雨が来れば危ない――そう感じられた。


族長から話を聞いた海彦は、集落を回り、農民たちの長を見つけて伝えた。

川の流れの変化、長雨の兆し、備えの必要性。


戻って美和にも相談し、長や管理者とも準備について話し合った。

この地での暮らしを守るため、必死だった。


そして長雨が続いた。

森の前に簡易テントを建て、水を警戒しながら避難した。

やがて洪水が起き、大地に水が溢れ出した。


耐えること――それが、いま出来るすべてだった。


美和は浅間山に祈るしかなかった。


噴火、洪水、佐久平の厳しさを痛感する日々。

それでも米の力は人々を支えた。


美和は皆の前で祭りを執り行い、佐久平の暮らしを守り続けた。


その頃、長野盆地の栗林や浅野でも、近畿圏の真似をして、長の墓を古墳として築く例が見られ始めていた。


海彦と美和の世代が移り変わり、先代たちが次々に亡くなっていく。


佐久平から逃れ、耐え抜き、戻り、噴火と洪水の苦難を越え、

土地の守り神として人々を支えた海彦と美和。


その名を後世に残すため、二人の古墳を造ることにした。


御影新田の集落では、夏と冬を使い、何年もかけて築き上げた。

やがて佐久平一帯にその名は広く知られるようになった。


しかし、噴火と洪水の後、作物の収穫には限界が来ていた。

次の代は、新たな道を探さねばならない。

それが大きな課題となっていた。


佐久平の大地は夕日に染まり、赤く広がっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。