巫女の決断
巫女の決断
長野盆地の弥生集落では、支配層形が長と管理者が巫女を取り込み、一族として固まりつつあった。
これは浅野も栗林も同じであった。
変化が起きたのは、佐久平の移住であった。
かつて、近畿圏への移動、八ケ岳の石の運搬など、移動するグループの存在が彼らの意識を変えていった。
彼らは、千曲を通り、安曇野に抜ける道を見いだし、諏訪に入り、そこから伊那を通って、飯田に抜け、山を越え、愛知に入る道を見いだしていた。
そこから桑名、鈴鹿から山に入り、伊賀を抜けて、奈良盆地に至る。
最初は、足の強い若者が近畿圏へ向かったが、相手にされず、それでも新たな鉄器などや大きな建物などの情報を得て、繰り返し、人を派遣する事になった。
少しずつ、新たな文化の匂いに興味がそそられていった。
そんな栗林や浅野の動きを聞いた巫女は、佐久平で移動するグループの動きで、近畿圏の凄さは知っており、動きに動揺は無かった。
また、巫女は佐久平で移動するグループとなっていた海彦と結ばれた子孫であり、長や管理者達とは家系が離れていた。
いまの海彦が立ち寄ってくれた時に、質問した。
「海彦さん、私は、かつて巫女を警護してくれた海彦さんの子孫で、私が海彦の証であるナイフを持っています。」
「僕はその海彦の弟の子孫です。ナイフは、確かに証ですが、僕は浅間山の森の族長として、海彦を継いでいるのです。ナイフは巫女に預けます」
巫女は、困ってしまった。
私は佐久平を捨てた巫女。
どうしたものかと考えた。
巫女の名を捨てるしかないと考えた。
「私は巫女の名を捨てます。これから《桜》と呼んでください。」
海彦は、突然の宣言で戸惑った。
巫女が巫女の地位を捨てるつもりだ。
しかし、巫女をこのままにしておいて良いだろうか。
いまは森にも戻れない。
「桜様、了解しました。いまは夏です。ゆっくり動けば、桜様でも、伊勢に行けます。伊勢の大巫女に会いに行きませんか?」
海彦は、いまは大きな巫女の力を必要としてると感じた。
巫女も桜として、生きていくなら、伊勢の大巫女に会うのは大きなチャンスだと感じた。
私は桜として生きてく指針がもらえるかも知れない。
「はい、長たちに断り、行けるよう準備します。よろしくお願いします。」
巫女は、小屋を出て、長の所に行く。
「長、ごめんなさい。佐久平から離れ、私は力を無くしました。海彦とともに伊勢に向かいたいと思います。秋の収穫の時には戻れます。よろしいですか。」
長は、巫女が気落ちしていることを感じていた。
巫女の望みで海彦がいるならと思った。
「巫女、侍女をお連れくださいね。女性がいないと旅は困ることになる。分かりました。了解します」
頭を下げて出ると、海彦に伝えた。
海彦は、僕の妻が一緒に行くからといった。
巫女は自分の侍女に行って準備を始めた。
田んぼの稲は、まだ緑色で伸び切っていなかった。
風がその緑の稲穂を揺らしていた。




