長岡の洪水
長岡の洪水
巫女は冬の間、川の動きを気にしていた。
だけど、何が起きるのか。
海彦が言った上流の崖崩れ、それに千曲川からは、集落は離れてる。
巫女は、いま出来る事はないかと悩んでいた。
集落では、噴火が起き、灰が振ってきたが、秋の収穫が順調だったのは、巫女の祈りのおかげと、冬は、落ち着いて過ごせていた。
春が近づき、苗床の準備が進んでいる。
そこへ海彦が神殿を訪ねてきた。
「巫女、今年は気をつけないと、千曲川が氾濫するかも知れない」
と、いきなり言ってきた。
「千曲川は、佐久平でも集落から離れてますよね。それで、、、」
「巫女、佐久平は、平なんですよ。氾濫が起きるとここまで水が来ると思います。巫女様の気遣いは当たりですよ」
冬場に悩んでいた事が実現になるのか。と、巫女はがっかりした。
それを見た海彦が続けた。
「上流の確認、雨の様子など確定するのは、まだ早いですよ。準備ができます。」
そうだ。準備が出来るんだ。海彦の言葉にすがるように聞いた。
「すみません。何が出来るんでしょうか?」
「雨の気配が来たら、浅間山の森の手前まで逃げれば、水から逃げれると思います。」
逃げることが出来る。
噴火では何も出来なかったが、逃げられる。
巫女は、すがるように海彦に頼むしか無かった。
「海彦さん、お手伝いいただけますか?」
海彦は大きく頷き、快諾した。
雪解けで水の量が増えると感じ、千曲川の上流を見に行くことにした。
去年見た崖崩れの場所に行くと、その先にも崩れて堰き止められてる場所があった。
《これは、洪水、起こるかもだな》
堰き止められたダムは、まだまだいっぱいになって無い。でも溢れるイメージがした。
使われなくなった洞穴が、虚しく風に吹かれていた。
これは、長雨の時期が危ないかも知れない。
早めの準備しかないな。
俺は管理者に声をかけることにした。
巫女に繋ぎを頼み、簡易テントの作り方を教えた。
さらに、茅を早めに刈り取ってしまい、屋根材に使うことを指示した。
やがて順調に田植えが始まり、田植えが終わると、長雨の時期になった。
俺は雨の中、千曲川の様子を見に行った。しかし川の流れに変化は見られなかった。
巫女に報告した。
「長雨の影響は、まだないようです」
巫女は、喜んでいたが、海彦は続けた。
「申し訳無い。上流でせき止められてるのは、去年の地震のせいだと思う。安心は出来ない」
巫女は、長を始め、今回の長雨は過ごせそうだが、緊張しておいて欲しいと伝えた。
長雨が過ぎて、夏はとても暑くなった。
俺は、胸騒ぎがした。
暑いさなか、保倉川の小屋を訪ねた。
「叔母さん、俺だ海彦。」
「ああ、海彦、長岡が洪水で田んぼがやられたらしいよ。」
え、と思った。
そんな、長岡の川は信濃川だが、あれは千曲川だ。
不味いな、上流も崩壊の可能性はあるな。
俺は急いで戻った。
太陽は高く、真っ青な空に輝いていた。
こんなに暑いのに皮肉だ。
俺は舌打ちした。




