噴火
噴火
紀元前1世紀過ぎ、浅間山は噴火寸前であった。
そこに浅間山の森から男が神殿に来た。
「噴火が起きるぞ」
巫女は、虫の声が聞こえなくなった原因に思い至った。
巫女は、その男を受け入れた。
「噴火はいつ起こるのですか?」
男は、浅間山の森の者であった。
巫女は、長に向かって、農民に噴火が来ることを知らせてと言った。
その時、浅間山の山頂から赤い炎が拭き上げ、ドカンと大きな音が響いた。
皆は小屋に隠れるしかしょうがなかった。暫くすると辺りが暗くなり、噴煙の灰が振り注いできた。
暫くして、二度目の噴火の音が響いた。
ドドドーン
灰は、音もなく振り注いでくる。
小屋に、田んぼに至るところに、振り注いだ。
皆は小屋の中で、静かに見守るしか無かった。
幸い、噴火の向きがこちら側ではなかった。
巫女が男に聞いた。
「どうして来てくれたんですか。いまは、浅間山の森にも入ってないのに」
「俺は海彦を継いだ者だ、昔から佐久平の集落と関わりがある。」
巫女も代々、浅間山の森の話は言い伝えられていた。しかし内密のことと勘違いしていた。
巫女は海彦に礼を言い、しかし灰への手立ては思いつかなかった。
灰は時間を待つしかなかった。
巫女は、これからも伝えに来てほしいと言い、森のことは他には知らせないことを伝えた。
海彦は、了承し、戻った。
巫女は、侍女を伴い祈りを繰り返すのであった。
海彦は煤だらけの道を進み、浅間山の森へ戻った。
森にも灰は降り注いでいた。
噴火から二日が経った。
佐久平の農民は、稲の灰を祓い、水を引き直した。
噴火による灰の被害は、生活の影響よりも精神的な衝撃が大きかった。
巫女は予見とその対処が必要と考えていた。
まずは、祈りを繰り返し、農民の皆に、集落を歩き、落ち着かせる努力を忘れなかった。
巫女は、農民から信頼されていた。
その年の収穫は、灰の影響もあまりなく、無事終えた。
浅間山の森や佐久平には、冬になっても豪雪にはならない。とはいえ、雪は積もる。気温は低い、高所だからだろう。
だから、冬越しは必要だった。
海彦は、雪の積もる前に神殿に着ていた。
巫女が呼んだのだ。
「海彦さん、浅間山は、どんな具合ですか」
「落ち着いたよ。と言っても大きな噴火だったから、暫くは大丈夫と思う」
「暫くはって、いつ頃までですか?」
「俺は、そこまでわからないけど、」
そうですよね。未来を見ることなんて誰にも出来ない。気配を感じることだけだ。
海彦が続けた。
「千曲川の上流が大分と崩れていた。地震のせいだと思う。」
「それってどういう事ですか?」
「川の流れに変化があるって事だよ」
変化?とはなんだろうと巫女は思った。分からないという顔してると海彦が続けた。
「雨が降ると川が氾濫するかも、」
「そんな事が起きるんですか?」
「千曲川って大きな川で、長野盆地辺りも崩れたときがあったし、どうかな」
巫女は、春になっても知らせて欲しいと願った。
海彦は、浅間山の森は、この集落を見守る森だ。巫女が願うなら動く。
と、約束してくれた。
凍りつくような地面の上に、白い雪が降ってきていた。
風は冷たい。冬になる。




