近畿圏の巫女
近畿圏の巫女
櫛田川を左折し、国見山に向かっていた。
国見山からの一望は、金色の絨毯に再び驚いた。
息子も言葉がなかった。
屋敷の門で小矛を見せると入り口の侍女に大巫女様のお母様に言付けがあると伝えた。
暫く待って、左端の部屋に通された。
「伊勢の大巫女様のお使いです。」
「うむ、入れ」
三人で挨拶して、部屋に入った。
部屋には、茅で編んだような敷物の上に座ってる巫女がいた。
伊勢の大巫女が年を取ったという感じの小柄で膨よかな女性がいた。
弓男が切り出した。
「大巫女様からお持ちしたのは、熊野の蜂蜜です。ご確認ください」
と言って、壺を前に差し出した。
「ご苦労さまでした。そこに座ってください。」
巫女の前に三人が座った。
「お主は、浅間山の者か?」
弓男が答える
「はい、その通りです」
「懐かしい。我は大巫女に位を譲ったので、無沙汰をしてしまった。」
俺は、好奇心で聞いてしまった。
「巫女様は、近畿圏の巫女なのですか?」
「どう見えるかのぉ」
巫女は、以前は縄文巫女だったが、いまは、祈祷はしているが、どうかな、と、笑って言った。
「私は、米作の為の人を集めたり、季節の流れを伝える事はしているが、巫女ではないと思う」
いまは、浅間山の婆様の機嫌も伺えない。
渡来の者の声は強く、我の祈りは届かない。
困ったものだな。
と、言うのであった。
すると弓男が、切り返した。
「浅間山の婆様は、まだ巫女様のことを気にかけてましたよ。」
大巫女様も巫女様を大事にしていると続けた。
「弱気は遺憾な。ありがとう。浅間山の婆様によろしく伝えておくれ」
巫女は、大きな袋を出した。これは米粒だ。水で煮て粥にして食べると美味いぞ。
と渡してくれた。
三人は、近畿圏の館を出て、浅間山に向かった。
奈良盆地から伊賀を抜け、鈴鹿を通り愛知、それから山を抜けて伊那へ入った。
秋の終わりは、吹く風が教えてくれた。
そして、諏訪へ渡り、八ケ岳を通って、浅間山の森へ戻った。
「婆様、伊勢の大巫女から奉納したいと渡された蜂蜜だ。」
婆様は、熊野の蜂蜜か。
懐かしいと、喜んだ。
大巫女とその母の縄文巫女の話をすると、悲しそうに言った。
「伊勢の大巫女は、縄文巫女の力を持ってるようじゃ。しかし近畿圏の母じゃは、遺憾な。弓男は、よく言ってくれた。」
近畿圏の渡来人共は、強い。いや、母じゃの巫女では、気持ちが付いていけないんだと思う。
と、大巫女の母の立場を憂いていた。
俺は、どうしてあげれば良いか。出来ることはないかと聞いてみた。
「わしにも見えんからなぁ。」
弓男が切り返した。
「婆様、巫女様は、根に縄文を持ってると感じた。」
今度は、直接、近畿圏に行って貰おうかなぁと、婆様は続けた。
「弓男よ、母じゃの巫女を頼む。」
婆様は、弓男を見つめた。
婆様の穴の中で、貰ってきた米を煮てみた。
粥は、初めて食べる。
果実を煮たものとは違い、ほのかに甘く、さっぱりしていて、米粒がブツブツしていたが、満足感があった。
息子が一番に声を上げた。
「美味いな。満足感がある」
そうだ。これが新しい食料なのだ。
冬越しの為に、弓彦と別れ、来春に、この穴に戻ることを俺は、誓った。
浅間山の秋が終わろうとしていた。




