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 生暖かい感触が自分の手を伝う感覚。胸が痛んで頬を伝う涙。けれど、神奈は御幸の体をしっかりと抑えたまま、唇を離さなかった。


(ごめんなさい、御幸様……!)


 初めての口づけが、こんな痛みを伴うものになるとは考えもしなかった。もっと幸せな気持ちで、その時を迎えると思っていたのに。溢れる涙が止まらない。


「ハハッ、見たかお前ら! この女は愛する婚約者を手にかけた化物だぞ! 自分の男一人を犠牲にして、帝都を救う?! それが本当に正義なのか――」

「桐生院、お前……」


 周囲にいた退魔師たちも言葉を失い、ただ神奈を見つめることしかできなかった。


 そんな気持ちで痛みに悶え苦しむ御幸を、ただ抑え込み抱き締める。少しでも痛みが和らぐように、側にいると伝わるように。


「くっ……!」


 だが、どれくらい時間が経っただろうか。御幸の体がぴくりと震えた。直後、とんと叩かれ体を離せば、異形化が進んでいた肩に変化が現れていることに気づく。


 安堵が胸いっぱいに広がり、神奈の瞳にじわりと涙が浮かぶ。だが、すぐさまそれを拭い去り、泣くのをやめた。


「水無瀬部長、早く手当を!」


 すぐさま正宗を呼ぶと、唖然としていた彼が何事かと思い御幸に近寄り、息を呑む。


「まさか……」

 

 周囲は状況をまだ理解できていないようで、何があったんだとざわついている。


 正宗が駆け寄ると意識を失った御幸の体がずりと傾き、慌てて抱き留める。だが、異形化が進んでいたとされる右肩は、完全に元の肌色に戻っている。


「桐生院君、まさか君はこの小刀で異形化の核を斬ったというのか?!」

「説明は後です! 早く止血をして処置を!」


 神奈が指示を飛ばすと、すぐに正宗は「分かった」と返す。


「おい、そこの君!すぐに担架を準備してくれ!」

「はっ!」


 正宗の命令に東雲の隊員たちが連携して、体制を整える中、神奈は呆然とする日比谷に向き直った。


 自分の才能の勝利を確信していたのに、その才能を凌駕する天才の存在に、打ちのめされているのか。先ほどまでの威勢の良さはない。


「……化物だよ、アンタは」


 小さく呟かれた言葉に、神奈は冷徹な表情を浮かべたまま「そう言われたって構いません」と言い放つ。なぜなら、どんな自分でも受け入れてくれる。御幸はそういう人だから――。


「それで大事な人が守れるのなら、私は化物にだってなりますわ」


 調伏刀を鞘に納めながら、そう言い放った神奈に、日比谷はがくりと項垂れた。その時だった。


「桐生院先輩、帝都内に発生していた魔鬼の制圧が完了したそうです!」


 夏樹の声に振り返ると、別現場を任せてきた有栖や橘、藤堂らがこちらへやってくるとろこだった。


 夏樹の言葉にようやく息をついた神奈は、東雲の隊員に拘束され、連行される日比谷の背中を見送る。帝都をゆるがす大事件は、こうして幕を閉じ、神奈はすぐさま御幸の元へ急いだのだった。

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