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「桐生院神奈、さっさとその男を殺さないと、化物になるぞ? もう随分と異形化が進んでいるだろう?!」


 背後から聞こえてきた嘲笑に、神奈は両手をギュッと握りしめた。


「桐生院、すぐさまその場から離れろ!」

「総員、厳戒態勢を取れ!」


 四方八方から、そんな慌ただしい声が聞こえ、自分たちが取り囲まれているのが分かる。東雲に所属する退魔師として、自分がいま何をすべきか。そんなことは考えなくても理解していた。


 目の前の御幸だって、それを受け入れようとしている。


『はじめまして、神奈さん。これから、どうぞよろしくお願いします』


 一方的に恋心を抱いていた御幸の婚約者になり、初めて対面した時のこと。


『春の花のように美しい貴女に、ぴったりの髪飾りだと思って選んだんですよ』


 誕生日に初めて贈り物をもらった時のこと。


『僕の好みの女性は、最初から貴女でしたよ……神奈さん』


 積年の想いを打ち明け、心が通じあった時のこと。


 これまで御幸と過ごした日々が、頭の中に次々と駆け巡る。どんな日も神奈にとって、かけがえのない宝物みたいな日々だ。


 御幸の妻になり、これからしたいこと、やりたいことは山ほどある。伝えたいことだって、まだほんの少ししか直接言えていない。けれど――。


『僕は神奈さんがこの帝都を守るため、刀を振るっていることを誇りに思っています。……だから、どんな時も忘れないで。貴女は尊い使命を全うしているのだと』


 御幸がそう言ってくれたことが、退魔師としての自分をいつも奮い立たせてくれた。ならは、すべきことは一つ。


「……御幸様」


 俯いていた神奈が顔を上げれば、額に汗を滲ませながら優しく笑う御幸がいる。震える指先を必死に抑え、神奈はできるだけ意識して御幸に笑みを見せた。


「……『どんな時も、僕たちはずっと一緒ですよ』と、貴方はそう言ってくれました」


 そう言って懐から何かを取り出し、ぎゅっと強く抱きしめると彼の耳元に唇を寄せる。


「だから私は絶対に、御幸様を一人になんてしませんわ」


 神奈はそう言いながら、手にしていた小瓶を片手で開ける。


「私も、貴方をこの世で一番愛しています」


 直後、手にした瓶の液体を飲みほす。放り投げられた空になった瓶。神奈は御幸の頬に手を伸ばし、優しく微笑みかけた。その背後に見える左手には、小刀が握られている。


 それから神経を研ぎ澄まし、決意を固めると、ぐいと体を抱き寄せ御幸に口づけた神奈。


「んんっ……!」

「ふっ……」


 神奈に口づけられた御幸は一瞬、驚いた様子で目を見開いた。だが直後、顔を歪めて苦しそうな表情を浮かべた。なぜなら神奈が、後ろから御幸の右肩を小刀で刺したからだった。

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