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肩を上下させ、息を乱しながらそう言った御幸が、これから何を言おうとしているのか。
神奈にはそれが分かり、小さく首を横に振る。その瞳には、じわりと涙が浮かんでいる。すると、御幸は神奈の頬に手を伸ばし、愛おしそうに、すると撫でた。
「僕を、殺してください」
その言葉と裏腹に、優しい声色が神奈の耳に聞こえてきた。何もかもを悟ったような顔で、何の躊躇もなくそう言った御幸。清々しさすら感じるその顔に、迷いはなかった。
神奈は顔を歪めて「いや」と小さく呟いた。瞳から零れる涙が止まらない。いま、御幸が何と言ったのか。理解したくないと、心が強く言っている。
「……聡い貴女なら分かるでしょう? 僕の右肩はすでに異形化が進んでいます。数刻も立たないうちに、この体は蝕まれ僕はこの帝都を……貴女をおびやかす魔鬼になってしまいます」
困ったように笑いながら、そう言った御幸に神奈の胸はますます苦しくなった。こうして話をしている間も体はどんどん蝕まれており、御幸の言う通り、体が完全に異形化するのも時間の問題だ。
だが、大好きな婚約者を、この世で一番愛しい彼を、この手で殺めるなんて、どうしてそんなことができるだろうか。
「嫌です……っ、そんなこと絶対に嫌……っ」
頭をふるふると振りながら、御幸に縋りつく神奈。けれど、すでに硬くなっている体の感触が直視したくない現実を突きつける。
「神奈さん」
名前を呼ばれ、そっと顔を上げると切れ長の流麗な双眸と目が合った。
慈愛に満ちた瞳に見つめられ、神奈の目から涙が溢れる。御幸はそれを指で優しく拭い、ふと微笑んだ。花が咲くような綺麗な笑みに、胸が強く締め付けられる。
「貴女を、愛してる」
慌ただしい周囲の音が聞こえなくなり、御幸の声だけが耳の奥に飛び込んできた。陽だまりのような優しい声。いつだって自分を優しく、甘やかしてくれるその声が、神奈はとても大好きだった。




