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「ぐぁ……っ!」
「御幸様!」
突然胸元のシャツを握りしめ苦しみ出した御幸に、神奈が慌てて顔を覗き込む。
「日比谷を拘束をしろ!」
「一体、彼に何をした⁈」
徐々に視界が晴れると、側にいた退魔師たちが駆け寄り、現場は慌ただしくなる。まだ周りには相当数の魔鬼たちも出現しているこの状況で、この場は混乱を極めていた。
そんな中、神奈は御幸に触れる手が異変を察知していることに気づく。
(まさか……)
そう思い、震える手で御幸のシャツの襟元をそっとどかすと、肌の一部に異形化が現れていた。先ほど日比谷が御幸打ったのは、やはり異形化の薬だったのだ。
「うぅ……っ」
「御幸様、お体は大丈夫ですか?! 御幸様!」
「おい、一体どうなってるんだ?!」
「状況が分からんが、あの苦しみようは異常だぞ!」
周りからそんな声が聞こえる中、神奈は苦しむ御幸に懸命の声を掛け続けた。他の隊員が言っているように、明らかにこの状態は異常。御幸の体が危険に晒されていることは確かだった。
すると、ハハハハと愉快そうに神奈を嘲笑う日比谷の高笑いがその場に響く。
「はっ、今の気分はどうだ⁈ 桐生院神奈! 全てを守るなどと愚かなことを言ったお前の正義は、ついえたぞ! やっと完成した人間を魔鬼化する薬を、その男に打ち込んでやった! 打ち込まれた核を破壊しない限り、魔鬼化はどんどん進む! 数刻もせぬうちに、その男は化物になるぞ!」
今にも神奈に詰め寄ろうとする日比谷を、退魔師四人がかりで抑えつけていたが、神奈は顔を強張らせて御幸を見ていた。
血の気がすっと引いていく感覚。「なんてことを!」と叫ぶ周りの嘆きは遠くの方で聞こえ、全身から力が抜けて立っているのも、ままならない。
(私の、せいだわ……)
もっと早くに日比谷の異変に気付けていたら。もっと自分が強かったら。自分が退魔師でなかったら。そもそも御幸が自分と婚約しなければ。
そんな「もしも」が頭の中を駆け巡る。
「かんな、さん……っ」
その時、御幸が苦悶の表情を浮かべて神奈の名を呼んだ。
まだ意識があることに安堵した神奈は、「御幸様!」と彼の肩を優しく抱く。けれど、御幸が顔を上げた瞬間、顔面蒼白の顔を見て息を呑んだ。
顔色が悪く、唇は真っ青になっている。額に汗を滲ませ、苦しそうに笑う婚約者の姿に、指先が小さく震えてしまう。
そんな神奈の反応を見て御幸は困ったように笑うと、苦しいだろうにも関わらず、いつものような優しい顔で見つめてきた。
「……神奈さん、あなたに、お願いがあります……っ」




