5
「……研究に研究を重ね、俺はこの特殊な呪符を開発した。だが、それはあくまでも手段のひとつにすぎない。俺が本当に果たしたかったのことは……人間を異形化させるための薬を作りたかったからだ」
静かにそう呟いた日比谷は、不気味な空気を放っていた。
「人間を、異形化……? なら、先日人体の一部に異形化が認められた変死体が見つかったのも――」
目を見開いて驚く神奈をよそに、日比谷は薄ら笑いを浮かべながら懐に手を伸ばす。
あ、と思った時にはすでに遅く、にやりと嫌な笑みを浮かべた日比谷は懐から取り出した黒い玉のようなものを宙に投げた。
「全員伏せて!」
神奈が叫べば、玉が破裂し辺りが白煙に包まれる。
「くそ、何も見えないぞ!」
「全員警戒態勢を取れ!」
モヤモヤと白煙が立ち込める中、四方八方からそんな言葉が飛び交った。
(早く日比谷を仕留めて、これ以上被害が拡大するのは避けなければ――)
往生際悪く、足掻く日比谷に対して、神奈の心につい焦りが出てしまう。――その時だった。
「お前に地獄を見せてやる!」
憎しみのこもった、血走った目でこちらに突進してくる日比谷が、白煙の中から現れた。その手には、注射器のような道具が握られている。とっさに体をひねって避けようにも、先ほどの討伐で負った傷が痛んで神奈の動きが鈍くなる。
(一歩、遅れた……っ)
出遅れた神奈に、日比谷の右手が振りかざされようとした。けれど――。
「神奈さんっ!」
すぐ近くで聞こえてきた声。ふわりと香った花のような香りに、神奈の息が止まった。守るように頭を抱えて抱きしめられ、気づけば神奈は御幸の腕の中だった。
「御幸、さま……?」
訳が分からず混乱する頭。だが、ほどなくして御幸の体がずるりともたれかかってきて、彼の背中が目に入る。そこには、先ほど日比谷が手にしていた注射器が刺さっていた。




