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「俺らにあんな嫌味を言ったくせに。口だけの人間は、これだから嫌になるぜ」
そう言われ、神奈はギュッと刀を握りしめた。先輩退魔師は、目にかかる程長い前髪を搔き上げて、馬鹿にしたような視線を向けてくる。
「……私のことがお嫌いなのでしたら、なぜこのような真似を?」
彼の行動の意図が理解できずに、神奈は再び地面を蹴り、魔鬼と対峙する。一方、先輩退魔師も同様に地を蹴って、神奈と同じ相手に刀を向けた。
「バーカ、俺らは組織だろ。一人でやるより、連携して動けるのが強みじゃねぇか」
先輩退魔師の言葉に、神奈が目を見張る。すると、後ろからもう一人現れ神奈の隣に並んだ。
「ま、俺たち凡人の中級退魔師なんて、せいぜいこんな風に戦うことしか出来ないからな」
見れば、彼も有栖に声をかけていた先輩退魔師だった。肩よりもやや短い髪をなびかせながら、口元には自嘲的な笑みを浮かべている。
上級退魔師の神奈は、これまで現場で一番能力が高い自分が先頭に立ち、魔鬼を一気に片付けてきた。
一閃入魂の技は体力の消耗が激しいが、その方が早く敵を仕留められるし、被害は最小限に留められる。実際、そうやって仲間を危険に晒すことなく、着実に成果を上げてきた。
だが、今回のように魔鬼が大量発生している現場において、神奈一人ですべてを討伐することは不可能だ。まだ、どれだけの魔鬼が残存しているのかも不明瞭な中、いたずらに力を消費することは得策ではない。
確かに今は、彼らの指摘するように「組織の強みを活かした戦術」が重要だった。
神奈はギュッと両手を握りしめると、顔を上げて自分の半歩前に立つ二人の背中を見た。
「……橘先輩と、藤堂先輩のおっしゃる通りですわ」
それから二人の名を呼べば「え?」「は?」と、呆けた声をあげる先輩方。けれど、そんなものは気にせずに、神奈は自分の言葉を紡ぐ。
「ですが、『凡人だから』『中級退魔師だから』こんな戦いしかできない、は違うと思います。橘先輩は霊力の保有数は平均よりやや低いものの、敵の懐に即座に入り込むことができる俊敏性に優れています」
「え、な、き、桐生院……いきなり何?!」
突然の褒めに、戸惑う橘。そんな彼をよそに、今度は藤堂の方を見た神奈。
「藤堂先輩は腕力が劣り力比べになると劣勢になることが多いですが、敵の急所を突く正確さは上級退魔師に引けを取らないほどの実力の持ち主です。……私は、そんな先輩方の型を盗み見て力をつけてきました」
「……お前、俺らのこと知ってたの」
一方の藤堂も口元を手で押さえ、目を丸くして驚いているようだった。「同じ東雲で働く方ですもの。全員の名前を覚えるのは当然ですわ」と涼しい顔で続けた神奈に、ドン引きの様相で「天才、こわすぎる」と続けた藤堂。
「『どんな退魔師も師と思い、技を盗んで錬磨しろ』……それが我が桐生院家の教えですから」
そう言った神奈にぽかんとしていた二人だったが、次の瞬間にはふと口元を緩めて、ハッと鼻を鳴らして笑う。
「……行けよ、桐生院」
刀を構えた橘が、小さく息を吐く。
「行けって――」
「婚約者が囚われの身なんだろ? ここは俺らが引き受けた」
その言葉に、目を大きく見開いた神奈。聞けば夏樹と有栖から、事情は聞いているとのことだった。「ですが」と詰め寄る神奈に、橘は「問題ない」と返すだけ。
「《《あの桐生院神奈》》から、お褒めの言葉をいただいたんだ。……やるしかねぇだろ」
「鼻につく後輩だと思ってたんだがな。少しは可愛げがあるらしい」
二人はそう言って、夏樹や有栖を含む他の退魔師たちに「おい、お前ら!」と声をあげた。
「桐生院は抜けて、ここは俺らで制圧する!」
「三人組で隊を組め!」
的確な指示を飛ばし陣形を整えると、襲い掛かってくる魔鬼を迎え撃つ準備は万全。
「桐生院先輩、行ってください!」
「私たちは大丈夫だから!」
夏樹や有栖からの後押しもあり、神奈は小さく頷いた。
「ありがとうございます! ここはお願いいたします!」
頭を下げ礼を述べると、神奈はくるりと背を向けて駆け出した。後ろから、魔鬼たちの叫声が聞こえてくる。けれど、神奈はもう振り向かなかった。
不安がないと言えば嘘になる。だが、仲間を信じて託すことも必要だと、彼らは教えてくれた。きちんと言葉にすることで、分かる合えるということも――。
「……待っていてください、御幸様」
腰の刀に手を掛けた神奈は、目的地を目指して全速力で駆け出した。




