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「ギエェェェェ!!!」
直後、突如聞こえてきた耳をつんざく叫び声とともに、魔鬼が襲い掛かってきた。数は、十をゆうに超えている。時雨は一般人の避難誘導に回るらしく、他の隊士らと共にその場を後にした。
「行きますわよ、朝霞君、有栖さん」
「はい!」
「ええ!」
刀を鞘から抜き、構えを取る。いつもと違って馴染みが悪いが、今はそんなことを言っていられない。
『常に自分の愛刀が手にあるとは限らない。どんな鈍ら刀を与えられても使えるようにする……それが一流の退魔師というものだ』
稽古が厳しかった父、玄瑞の言葉がふと神奈の頭をよぎる。幼い娘が転んでも手を差し伸べたりせず、「自分で立て」と言うような父だった。けれど今、そんな父の厳しい稽古を受けてきたからこそ、分かることがある。
どんな状況でも対応できるよう備えておくことの大切さを。
「黒煙となり消え失せなさい」
冷たく響いた声と共に、神奈は地面を強く蹴る。大きく跳躍した神奈をめがけて、左右から魔鬼が襲い掛かってきた。
だが、それをひらりと躱して、まずは右の魔鬼から真っすぐ斬る。体の軸をぶれさせずに振り下ろされた刀によって、先ほどの神奈の言葉通り、一体目の魔鬼が黒い煙に包まれて消え去った。間髪入れずに二体目も斬り、あっという間に討伐してしまった。
「さすが桐生院先輩、こんな刀でも斬れちゃうなんて!」
「天才って、ホント怖いわね!」
一方の夏樹と有栖も、二人がかりで魔鬼一体を仕留める。とはいえ、まだまだ異形の数は多く、一息つく暇もない。この場にいる退魔師は、全部で十名に満たないくらい。気を抜いていたら一気に形勢逆転されてしまう。
そんな中、神奈の胸の内にじわりと影が差す。
(御幸様は大丈夫かしら……っ!)
彼に、もしものことがあったらどうしよう。目の前の魔鬼と戦いながら、そんな不安がふと頭をよぎる。集中しなくてはダメ。そう思うのに嫌な予感がして、ざわざわと落ち着かない心。
御幸を一刻も早く助けに行くためにも、ここにいる魔鬼を全て倒さなければいけない。頭では分かっていながらも、次から次へと湧き出てくる魔鬼に、少しずつ心の中で不安が大きくなっていく。
(体力はかなり消耗しますけれど、先ほどのように他の退魔師を一旦下がらせて一気に片を付けた方が良いかしら)
焦りと不安で、刀を振り下ろす軸も次第にブレてきて、思わず舌打ちをする。――その時だった。
「おい桐生院、なんて面してやがんだ」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、黒のマントがひらりと視界を横切り、神奈はとっさに一歩後ろに飛びのいた。神奈の目の前に立ちはだかったのは、少し襟元を着崩した、軟派な印象の先輩退魔師だった。
「貴方は、白雪さんに声を掛けていた……」
以前、有栖に絡み食事に行こうとしつこく誘っていた先輩である。彼はちらと顔だけ神奈に向け、「情けねぇ顔してんな」とからかうように笑った。
「エリート退魔師様の実力は、この程度なんですか?」




