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「桐生院先輩……」
気遣うように顔を覗き込む夏樹の声に、神奈はゆっくりと顔を上げた。時雨たちの視線が自分に集まるのを感じ、神奈は胸に手を当て呼吸を整えた。
『僕は神奈さんがこの帝都を守るため、刀を振るっていることを誇りに思っています。……だから、どんな時も忘れないで。貴女は尊い使命を全うしているのだと』
そう言って花飾りを贈ってくれた御幸の言葉を思い出す。
「……時雨お兄様」
そして兄の名を呼ぶと、まっすぐ切れ長の瞳を見る。決意のこもった強い目に、時雨は「なんだ、妹よ」と静かに問いかけた。
「帝都の街も人々も……そして御幸様のことも、必ず守ってみせますわ」
時雨はそう言った妹の強い決意を察したらしい。ふと頬を緩め神奈の手を引いて、自分の胸元に抱き寄せた。
久方ぶりの兄からの抱擁。
嗅いだこともない香りのはずなのに、どこか安心感を覚える時雨の腕の中に張り詰めていた緊張が、ゆっくりと解きほぐされていく。
それから手に何かを握らされ、神奈は顔を上げて時雨を見た。手の感触から、小瓶のようなものだと分かる。
「……異国の研究所で手に入れた痛み止めの薬だ。何かあった時には使え」
視線を手元に落とせば、液体が入った茶色の小瓶があった。
いつも何を考えているか分かりにくい兄。会うと口喧嘩になることが多いのだが、こんな風に思いやりがある兄だということも知っている。
「ありがとうございます、お兄様」
神奈はそう言って体を離すと、退魔師の顔に切り替えて兄に背中を向けた。
すぐ近くから、魔鬼の反応を感じる。どうやら夏樹や有栖、少し離れているところにいる退魔師たちも、それを感じているようだった。刀の柄に手を掛け、神経を研ぎ澄ませる。
すぐにでも御幸の元へ駆けつけたい気持ちはあるのに、どうやらそれは難しそうだった。けれど、神奈がやるべきことは決まっている。
「さあ、この帝都に巣食う、諸悪の根源を捕らえに行きましょうか」




