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その瞬間、夏樹の表情がさっと曇った。彼にも思い当たる節があったのだろう。俯いた夏樹は、「ええ」と静かに返した。
「どういうことですか」
眉間にしわを寄せながら尋ねた有栖に、夏樹は刀の柄に手を掛けた。前方には、別部隊の退魔師たちの姿。一般市民を保護しているのが見えてきた。
「……この調伏刀は、技術部に調整をお願いしていたもので、防御力が増幅させる新しい術式を施してもらっているんです。その分、刀が少し重くなるとは聞いていましたがーー」
御幸はそこで言葉を区切ると、言いにくそうに口を開いた。
「何と言うか……この刀はその逆で、前より軽いような気がして」
「軽い……?」
怪訝な表情を浮かべる有栖に、神奈も「私も同じことを感じました」と続けた。
「私たちは、刀に自身の霊力を込めて魔鬼を斬りますが、今日はその霊力が込めにくく攻撃力が下がっているような気がしましたわ。……調伏刀を調整できるのは技術部の人間だけ。何か細工ができるとすれば、彼らの中の誰かと推測するのが妥当でしょう」
神奈の言葉に、夏樹と有栖が息を呑んだ。
「……そういえばいますよね、技術部には研究部並みに魔鬼の生態にも精通した人物が一人」
両手を握りしめながら、ぽつりと夏樹が呟いた。苦虫を噛み潰したような横顔に、有栖も頭の中に思い浮かぶ人間がいたらしい。言葉を詰まらせた二人に、神奈が「それは」と言いかけた。
「神奈!」
その時だった。神奈の言葉を遮るように聞こえてきた声に振り向けば、神奈の兄、桐生院時雨がそこにいた。
胸ほどある長い髪はひとまとめに束ねられていて、肩口から流れている。
いつもの和装ではなく、今日は鉄紺色のスラックスと珍しく洋装だ。白シャツは肘までまくりあげられており、どうやら時雨も避難誘導を手伝っていたらしい。荒い呼吸で肩を上下させながら胸を押さえていた。
様子のおかしい兄に、神奈の胸にざわめきが走る。退魔師でもない時雨が危険を冒してまで、どうして自分の元へやってきのたか。
「お兄様、どうなさいましたか」
固唾を飲んでその答えを待っていると、時雨は神奈の肩に手を置いて、神妙な面持ちで言った。
「御幸君が攫われた……」
その言葉を聞いた瞬間、神奈の胸がどくりと鳴り、目の前が真っ暗になるような不安に襲われた。




