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「海運業で財をなす御曹司、帝都随一の退魔師である桐生院神奈の婚約者、東雲副隊長を務める桐生院玄瑞の義息子……。芦屋家の取引先には、有名企業もたくさん名を連ねているだろう? そういう立ち位置にいるお前は、我々にとって《《使い勝手》》がいいんだよ」
そう言って、男は嘲るような瞳を向けてきた。だが、御幸はそれを聞いて、ふと口元を緩めると「そんなに利用価値がある人間だと思われているなんて光栄ですね」と返した。
その顔に恐怖の色が全くないことに、男は眉をひそめた。
「……自分が置かれた状況を、分かっているのか」
「ええ、もちろん。……僕一人を攫ったところで、東雲の堅牢な組織力が崩れることはないこともね」
すると、男は乱暴に御幸の頭を掴み、そのまま勢いよく壁に押し付けた。
「うっ……!」
ズキズキと痛む体。目の前の男の後ろにいる他の男たちが、にやにやと下衆な笑みを浮かべてこちらを見ている様子が視界の端に入る。直後、腹に蹴りを入れられて頭がぐらりと傾いた。間髪入れずに、三人がかりで行われる暴行に、体の痛みは増す一方だった。
「はぁっ……」
気が収まったのか男たちの手が止まり、壁に打ち付けられた御幸の体がずるずると壁伝いにずり落ちる。だが、男は無理やり顔を上げさせると、御幸の目をまっすぐに見た。
「どうだ? 少しは自分の立場がわかったか」
圧倒的劣勢の状況にある御幸。だが、彼はそれでも瞳に反逆者なんかに屈しないという強い意志を浮かべ、笑みを絶やさず男たちを見据えた。
「貴方たちが誇りを忘れた背徳者だということは、よく分かりましたよ」
怯えた様子を一切見せず、勝気な微笑みすら浮かべる御幸に、男たちは苛立ちを隠さずに、もう一度頭を掴んで冷たい壁に押し付けた。
「随分と余裕だな、兄ちゃん。……だが、そんな顔していられるのも今のうちだ」
男はそう言うと立ち上がり、ひどく興奮した様子で御幸のことを見下ろした。「これから地獄が始まるぞ」と、愉悦の表情を浮かべながら――。
「おい、お前たち。人質に手荒な真似をするんじゃない」
その時だった。扉が開いたかと思うと、光の向こうから男の声が聞こえてきた。御幸を取り囲んでいた男たちは声の主の到着に頬を緩めると、「お待ちしておりました」と頭を下げて出迎えた。
この男が彼らが話していた「とある御方」なのだろうか。首謀者らしき男の登場に、御幸は額に汗をにじませながら、拳をギュッと握りしめた。




