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「緊急事態発生、緊急事態発生! 帝都に多数の魔鬼反応あり! 隊舎内にいる退魔師は至急、現場へ急行せよ! 繰り返し告ぐ――」


 突如、東雲の隊舎内に響いた放送に周囲は一層慌ただしくなり、調伏刀を手に廊下を駆けていく退魔師たちとすれ違う。


 帝都内の複数の場所で、魔鬼が発生。しかも、どこも複数体いるそうで討伐しなければならない数は相当数いるとのことだった。未だかつてない緊急事態が起こり、帝都の危機が訪れている。


 神奈は部下の夏樹とともに技術部に預けていた刀を受け取りに行く最中で、準備が整い次第、現場へ向かうことになっていた。窓の外には曇天が広がっていて、今にも雨が降りそうな灰色をしている。


「桐生院先輩、俺たちは中央地区への派遣が決まりました」

「報告されている魔鬼の数が、一番多い区域ですわね」

「ええ、一般市民の避難誘導はすでに先発隊が指揮しているそうです」

「私たちも急ぎましょう」


 どこもかしこも緊迫した空気で張り詰めている。以前、帝都で一部が異形化した変死体が発見されてから二週間以上が過ぎたばかり。その前には魔鬼が一度に五体も出現するというイレギュラーな出来事もあり、異変続きではあったが――。


(何がどうなっているのかしら)


 隣に並ぶ夏樹も険しい表情を浮かべている。前代未聞の事態に、みなが言いようのない不安を抱えているのは間違いなかった。


「……朝霞君、何かあれば私がいますから安心なさい」


 そう言って、ちらと隣に視線を向ければ夏樹は目を瞬かせた後、ふと口元を緩めた。それからニッと太陽のような笑みを浮かべると、「それは心強いです」と力強く返す。


「桐生院さん、朝霞さん…‥っ」


 と、その時だった。前方から二振りの調伏刀を両手に抱えて走ってくる人影が見えた。すぐに二人が駆けよれば、彼はいつぞやに水無瀬技術部長と共にいた青年だった。


「こちらお預かりしていた調伏刀に、新たな術式を施しておいたものです…‥っ。どうぞ持って行ってください」

「助かりました」

「ありがとうございます!」


 神奈と夏樹がそれぞれ刀を受け取り、青年に礼を言う。


「水無瀬技術部長は、すでに現場入りされているのですか」

「いえ、部屋にこもって解析作業に専念すると。僕ら下っ端が、今から現場に出て情報収集に向かうところです」


 夏樹の問いかけに、長い前髪から覗く眉を下げながら困ったような表情を浮かべる青年。どこもかしこも、今からは気の抜けない戦いが始まりそうだ。こういう時、部署を越えて一丸となり帝都を、帝都の人々を守るために動くことができる組織を誇らしく思う。


「貴方、お名前は?」


 神奈が尋ねると、青年は一瞬目を丸くさせた後、「日比谷(ひびや)宗介(そうすけ)と申します」と、まっすぐに二人を見て敬礼した。


「日比谷さん……刀の調整ありがとうございましたと、水無瀬部長にお伝えください。私たちが必ず魔鬼たちを滅殺し、この帝都を守り抜く、とも」


 神奈の言葉に夏樹も続いて敬礼する。宗介はしっかり頷くと、「お気をつけて」と続けて頭を下げた。


「では、僕はこれで。いってらっしゃいませ」


 元来た道を戻っていく宗介の言葉に、夏樹が気合いのこもった声で「はい、行ってきます!」と返す。それから宗介の背中を見送った二人は手にした刀を握り直し、すみやかに現場へ急行した。

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