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「……というわけで、あの花飾りは今修理に出しておりまして。私の不手際で、せっかくの贈り物を壊してしまって申し訳ございません」
会って早々に、どんよりとしたオーラを漂わせて謝罪の意を述べた神奈に、御幸はほっと胸を撫で下ろした。
「それで、そんなに元気がなかったんですね。思いつめた顔をしていたので、どんな話を切り出されるのかと少し冷や冷やしましたよ」
苦笑しながらそう言った御幸に神奈は俯いて、自分の足元を見つめた。
「……あの花飾りをつけていると離れていても、御幸様をお側に感じることができていましたから。私にとって、大事な宝物でしたもの」
そう言って、しゅんと落ち込む健気な婚約者の姿に、御幸は片手で口元を抑えながら必死に理性を堪えていた。
(何てかわいいんだ、僕の神奈さんは……!)
最近、仕事が忙しい彼女の予定に合わせ、今日は午後から半休だという神奈と食事をして帰ることになっていた。その道中、いつも彼女がつけていた髪留めがないことに気づいた御幸が理由を聞けば、そんな答えが返ってきたのだ。
これまでにも、たくさん贈り物をしてきた御幸だったが、神奈がそれほどまでにあの花飾りを大事に思って使っていてくれていたのだと思うと、嬉しさで胸がいっぱいになる。それと同時に、落ち込む彼女を笑顔にしてやりたい、とも――。
「なら、代わりと言っては何ですが――」
御幸はそう言って、通りかかった服飾店で足を止めると、「新しい髪飾りを贈らせてください」と言って神奈ににこりと微笑みかけた。
「え、そ、そんな悪いですわ……! 御幸様には普段からたくさん贈り物を頂いていますのに」
「修理中の髪飾りが戻ってくるまでの間につけておく用ですよ。髪飾りはいくつあっても困らないでしょう?」
「ですが……っ」
申し訳ないと遠慮する神奈をよそに、御幸は店頭に並ぶ髪飾りを手に取ってどれを買おうかと選び始めた。こういう時、やや強引にでも、ことを進めた方が良いことを、御幸は彼女との長い付き合いの中で学んでいた。
「あ、これなんかどうですか?」
そう言って御幸が手に取ったのは、薄桃色の山茶花の花飾り。
御幸が「よく似合いますよ」と笑いかければ、最初は遠慮していた神奈も気恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに頬を染めて口元を綻ばせた。
山茶花の花言葉は「永遠の愛」。
「……どんな時も、僕たちはずっと一緒ですよ」
御幸がそう言えば、はにかむ彼女にまた心を鷲掴みにされ、愛おしさが募る。
こうやって尊い時間を積み重ね、きっと自分たちは夫婦になっていくのだろう。長年思い続けてきた神奈との結婚が叶う日を、御幸は一層待ち遠しく思ったのだった。だが――。
「悪いが、お前には桐生院神奈をおびき寄せる餌になってもらおう」
どうして、人生とはこうも上手くいかないものなのだろう。ただ、彼女と幸せになりたいだけなのに。
神奈と別れた帰り道、御幸は正体不明の怪しい者たちに取り囲まれ、気づけば体を拘束されていた。
『どうやら帝都内でよからぬことを企む連中がいるらしい』
時雨の言葉が頭を駆け巡る。まさか自分がその渦中に巻き込まれるなんて、どうして想像できただろう。とっさに抵抗を試みたが、口元に布を当てられた瞬間、意識が次第に薄れていく。
(神奈さん……っ)
先ほどまで隣にいた、愛しい婚約者を想い伸ばした手は空を切り、御幸の視界は暗転した。




