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『刀を振るうなんて、芦屋もけったいな女と婚約したよな』
あれは、御幸との婚約が決まって初めて参加した社交パーティでのこと。赤絨毯に、シャンデリアが彩る麗しい洋館に財界人や実業家の子息、子女が大勢集まる会の途中、ふと耳に飛び込んできた言葉に神奈の手が固まった。
『お仕事とはいえ、やはり野蛮ですわよね』
『芦屋様なら、他にいくらでも縁談のお話はあったでしょうに』
タキシードやドレス姿の紳士淑女が集まる華やかな会場とは裏腹に、場内のあちこちからはそんな悪意に満ちた言葉が溢れていた。
御幸がいない時を狙って、わざわざそんなことを言う人間の言葉なんて気にせずとも良い。
神奈も頭ではそう理解していたが、棘のように胸に刺さった雑言をなかったことにすること出来ず、聞こえない振りをして、ぐっと耐えることしか出来なかった。
今でこそ女性退魔師の数も増え、市民権を得てきた仕事だが、当時はまだまだ「女が刀を振るうなど」という考えの人間は多かった。
芦屋家の現当主である御幸の父が、神奈の退魔師としての腕を買って見合い話を持ち掛けたことは聞かされていたものの、当の御幸がどう思っているかは聞いたことなど一度もない。それが余計に神奈の心を不安にさせていた。
社交パーティでの一件以降、本当に自分が彼の婚約者でいいのだろうかと、悩んだことは一度や二度のことではなかった。
『神奈さん、血が……!』
だから、手のひらにできた豆が潰れて血が出ていたのを御幸に見られた時、神奈はとっさにその手を引っ込めた。庭に咲く梅の花が見頃を迎えた春の日、縁側で二人並んで花見団子を食べている時だった。
過剰に反応してしまった神奈に、御幸も少し驚いていたようで戸惑った様子の彼と目が合う。
『申し訳ございません、少し驚いてしまって……。ですが、問題ありませんのでお気遣いなく』
いつものごとく涼しげな表情を浮かべ、淡々とした声色でそういった神奈。連日の訓練で出来てしまった豆だらけの手は、ほかの年頃のご令嬢たちのような綺麗な手ではない。それを婚約者の、恋心を抱く御幸には見られたくなかった、という乙女心も働いた。
けれど、その時の御幸は珍しく「見せてください」と譲らなかった。
神奈が断ろうとしたのを遮り、御幸はそっと自分の手を取り、懐から取り出したハンカチを当て血を拭ってくれた。




