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「はい、神奈お嬢様。髪のお仕度が終わりましたよ」
朝、仕事前に髪を結ってくれた女中の多紀は、鏡越しに神奈を見て「今日もお綺麗ですよ」と微笑みかけてきた。身支度はいつも自分でやるのだが、髪を結うのは昔から多紀の仕事。手が器用な彼女は、休日になると編み込みなど凝った結い方もしてくれるので、いつも助かっている。
「ありがとう、多紀」
神奈は鏡の前で隊服を整え、身だしなみを確認した。
変死体が発見されてから早二週間、神奈をはじめ東雲の隊員たちは慌ただしい日々を過ごしていた。厳戒態勢が敷かれている東雲隊舎だが、不審な魔鬼の出現は報告されず、何でもない日常が過ぎている。
(このまま何もなければ良いのですけれど……)
神奈は化粧道具を片付ける多紀を横目に、いつものように台に置いている髪留めに手を伸ばし、多紀に結ってもらった髪の根元につけようとした。
「あ……っ」
だが、その瞬間。ぱきんという音が聞こえ慌てて確認すると、髪留めの先端が折れていた。銀色の留め具に薄桃の花がついたそれは、御幸からの贈り物の一つで、仕事中にいつも身に着けていた花飾りである。
「あら大変、花飾りが……っ!」
多紀も慌てて側に寄り、留め具の欠片を拾い集めてくれたが、神奈は言いようのない不安に襲われていた。
(嫌な予感がするわ……)
どうしてだろうか、胸がざわつき落ち着かない。散り散りになった留め具の欠片にそっと触れる神奈は険しい顔つきで、それをじっと見つめていた。




