39/65
5
◇◇◇
「準備は滞りないか」
月灯りが照らすだけの暗い室内に、男の低い声が静かに響く。書物がぎっしりと詰まった本棚に囲まれたこの場所は、長い時を経た紙特有の匂いに包まれいてる。そんな室内では、二人の男が密会をしているところだった。
「ええ、ご指示通り秘密裏にことを進めておりますので、ご安心を。計画を知る者も最小限に留め、情報が外部に漏れぬよう努めております」
「これは長年温めてきた計画だ。万が一にも失敗するようなことになれば、すべてが水泡に帰す」
「そのような事態に陥らぬよう、私がいるのではないですか」
にたりと笑みを浮かべ、そう続けた男に、もう一方の男は「油断は禁物だぞ」と念押しした。
「ところで、上級退魔師の対応策はどうなっている。やつらに邪魔をされては、やっかいだぞ。特に、桐生院神奈の力は早々に削いでおきたい」
男の問いかけに、「そちらも滞りなく」と、うっそりとした笑みを返した男。それから至極愉しげな表情を浮かべて、目の前の男にこう尋ねた。
「あの娘の婚約者……芦屋御幸をご存じですか?」と――。




