2
会議室を出た神奈は、昼休憩を取ろうと自隊の執務室へ戻ることにした。見回りの強化が発表されたからか、今日の隊舎内は人の数がいつもより多く賑わっている。窓の外では、白衣を身に纏った研究部の面々が大きな箱を抱えて研究棟にぞろぞろと入っていくのが見えた。
(どこの部署も忙しくなりそうですわね)
そんなことを考え、神奈も配布された資料に目を通しながら午後の仕事の流れを確認していた。――その時だった。
「なあ、白雪ちゃん。前に俺らと一緒におでかけしてくれるって約束しただろう?」
「あれ、いつになったら行けるかな」
「申し訳ございません、先輩方。しばらくは仕事も立て込みそうなので……」
ふと前方を見れば、以前霊力測定会で会った白雪有栖が男の先輩に声をかけられているところだった。緩くウェーブがかかった長い髪は、今日は頭の高い位置で結ばれている。男は二人。少し襟元を着崩した、軟派な印象の男たちである。
側を通る人たちは、ちらと視線を遣るものの他人事のように通り過ぎていく。面倒ごとはご免だ、ということだろうと思ったが、遠巻きで様子を見ながらクスクスと笑う女性隊員も数名もいた。
先輩二人は有栖を挟み込むように取り囲んでおり、彼女は足止めをくらっているらしかった。有栖は苦笑を浮かべて、やんわりと断りを入れているようだが、全く引く気のない二人に神奈は思わず顔をしかめる。
昼休憩中とはいえ、隊舎内で先輩方は何をしているのか。
「今度、俺の友達が帝都に遊びに来るって言うから、白雪ちゃんのこと紹介したくてさ」
「ちょっとだけでもいいから顔出せないかな?」
可憐な後輩にぐいぐいと迫る男に、神奈は小さく息を吐いた。
(街中で絡んでくる相手なら拳一発で黙らせることができますけれど、先輩相手にそれはさすがに無理ですし……)
ひと通りシミレーションした後、神奈はそれから二人の背後に近づいて、「先輩方」と後ろから声をかけることにした。
「わっ、びっくりした!」
「き、桐生院……! 何だよ、急に――」
「私、今から白雪さんと昼食を摂る予定ですの。もうお話はよろしいでしょうか」
神奈が無表情のまま、淡々と尋ねると二人は「いや、まだ」と言いかけた。だが、目の前の神奈がじぃと無言で見つめてくるのが、よっぽど怖かったのか。先輩たちは体をびくりと震わせる。
「隊内は想定外の事態が発生して慌ただしいというのに、先輩方は呑気でいらっしゃいますね」
そう言って、にこりと微笑んだ神奈に二人はバツが悪そうに言葉を詰まらせたので、神奈は有栖の腕を取った。
有栖の体が一瞬強張ったのを感じたが「さあ行きましょう」と、にこやかに笑いかければ意図を汲み取ってくれたらしい。有栖は「ええ」と頷いてくれた。
「では、ご機嫌よう。先輩方」
一応、先輩という立場を気遣って、礼儀正しく頭を下げてその場を立ち去ることにした神奈。だが、少し離れてから「可愛げのない奴」と鼻を鳴らす音が聞こえ、やっぱり一発くらいかましてやればよかったかしらと心の中で毒づいたのは内緒である。




