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「……御幸様」
俯いた神奈の呟きに、御幸は首を傾げて「どうしましたか」と顔を覗き込む。すると、神奈は意を決したかのように、膝に置いた両手をギュッと握りしめた。
「……お兄様は、御幸様のどこを触っていたのですか」
「……え?」
神奈の口から出てきた言葉を、すぐに理解することができなかったのか、御幸の口からは気の抜けた声で漏れた。
自分でも何てことを聞いているのかという自覚が神奈にもあったのだが、胸の奥底に芽生えた小さな嫉妬心はどうやら消えてくれなかったらしい。
『僕たちは婚約者同士で、いずれ結婚して夫婦になるわけですから。いつまで経っても、このままというわけには、いかないでしょう』
以前、御幸は神奈にそう言って特訓しないかと提案してきたことを思い出す。これからはスキンシップを増やして、徐々に慣れていこうと言っていたことも。
(御幸様の言う通り、このままではいけませんわ……!)
「婚約者」という地位にあぐらをかいていれば、御幸の心が離れていってしまうかもしれない。他の誰かに触れられる御幸を想像するだけで胸が痛むほど、御幸は神奈にとって大切な存在だ。
(恥ずかしいなどと弱音を吐いていてはダメよ、神奈!)
くしくも兄の振る舞いに刺激された神奈は、謎のライバル心に火がついて何かのスイッチが入ってしまったようだった。目をぱちぱちと瞬かせて驚いている様子の御幸の腕にすりと手を伸ばし、「ぜひ教えてくださいませ!」と懇願した。
「か、神奈さん……? それを聞いて、どうするんです?」
「私も同じところを触りますわ!」
「神奈さん?!」
思いがけない返事が返ってきて驚く御幸。恥ずかしがりな婚約者から、まさかそんな言葉が聞けるなどと思いもしなかったのだろう。
だが、じっと見つめていると御幸はどう対処していいのか、困ったように苦笑を浮かべているので、神奈は早くも自分の発言を撤回したくなっていた。
(やはり、このようなお願いは私からするべきではなかったかしら……!)
冷静になって考えれば「体を触らせてほしい」だなんて、なんて破廉恥なお願いか。
そうして俯き、うんうんと頭を抱えていると、頭上からふと笑う声が聞こえた。直後、神奈の手を取った御幸にぐいと体を引かれ、縮まる距離。耳元に唇が触れるのを感じ、胸がどきりと音を立てた。
「……なら、どこだったのか当ててみてください」
吐息交じりの甘い声に、神奈の体がぴくりと震えた。ふわりと香った御幸の香りをすぐ側で感じ、どきん、どきんと胸が鳴る。
「神奈さんになら、どこに触れられたって構いませんから」
囁くような声とともに御幸は神奈の手をそっと引き、そのままその手を自分の首筋に導いた。触り心地の良い、なめらかな肌。緩んだ着物の襟元から覗く肌は煽情的で、じわりと体が熱を帯びてゆく。




