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「水無瀬技術部長……」
「隊舎で会うのは久々だねぇ、いつも君の調伏刀の手入れはさせてもらっているが」
白衣の男はそう言いながら、ウェーブがかった黒髪に指を絡ませ、にこり微笑んだ。隣には目が隠れるほど長い前髪の、気弱そうな部下を引き連れている。
水無瀬正宗は、東雲の技術部でトップを務める技術部長だ。長年、東雲で対魔鬼専用の武具開発を行っている上、魔鬼の生態にも精通しており、研究部と手を組んで研究を重ねている裏方におけるエリート隊員の一人である。
「いつも精緻な調整をありがとうございます」
「いや、構わないよ。現場で戦えない私には、そのくらいのことしか出来ないからな」
自分がしていることなんてと謙遜する正宗に、「そんなことありません!」と詰め寄ったのは夏樹だった。
「俺もこの前、初めて手入れをお願いしましたが、今までは何だったのかと思うくらい、刀を軽やかに扱うことができました! 水無瀬部長のおかげです、ありがとうございました!」
部下からの忌憚のない称賛に正宗は目を丸くさせた後、「そう言ってもらえるなら、技術部冥利に尽きるというものだ」と、ふと口元を緩めた。
技術部所属の正宗は神奈たちのような退魔師と違って現場に出ることは滅多にないが、刀の手入れにおいても腕が立ち、上級退魔師たちからの信頼も厚い男だった。
研究肌なのか「隊舎の住人」と呼ばれるほど技術部に入り浸り、心身を忘れて研究に没頭していることは有名。魔鬼の生態調査にも、長年心血を注いでいる人間だ。
「そうだ、また今度君たちの刀を預からせてくれ。上層部からの許可が下りて、最新の研究で考案された新たな術式を刻めるようになった。やや刀に重みは加わるが、防御力が増幅されて調伏刀の耐久性が格段に上がるようになったんだ」
好きな研究の話になると、いつも饒舌になる正宗は目を輝かなせながら、神奈にそんな提案をした。
「ええ、ぜひ。また今度の非番の日に、刀を預けに参ります」
「任せておいてくれ」
執務室へ戻るという正宗に敬礼し、その背中が見えなくなるまで見送った二人。正宗の側に控えていた青年も、神奈たちに丁寧に一礼して歩き出す。それから二人はくるりと進行方向に向き直り、見回り番の準備へと向かった。
そんな神奈と夏樹の後ろ姿をちらと見遣る視線があったのだが、段取りを確認していた二人が気が付くことはなく、刺すような気配はいつの間にか消えていた。




