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「神奈お嬢様、朝から何を熟読なさっているのですか」
朝、珍しくなかなか起きてこない神奈を起こしに来た女中の多紀は、部屋の片隅にある机の上に積み上げられた分厚い本を見て首を傾げた。
部屋の主は何やら本を隣に置き、ページをちらちらと見ながらノートにまとめているようだった。随分と勉強熱心な様子に、多紀は仕事の資料かしらと後ろから覗き込む。
すると、そこには「恋人との適切な関係性」などと書れていて多岐は目を点にした。
「あら、多紀おはよう。悪いわね、つい勉強に集中していて食事の時間を忘れていましたわ」
「……いや、それは良いのですけれど、一体これは?」
多紀がそう尋ねると、神奈は手を止めて「予習よ、予習」と返した。
「御幸様と思いが通じあったとはいえ、恋人同士の適切な距離感が分からなくて。これから『特訓する』とおっしゃるものだから、事前に知識を頭に入れておこうと思って勉強することにしましたの」
「……なるほど、状況は理解しました」
主人の斜め上の努力に、多紀は小さくため息をついた。神奈の暴走癖はいつものことだったが、それは御幸と両想いになっても健在のようだ。
本のタイトルをちらと見れば『恋愛初心者必見!これで意中の彼もイチコロよ(意訳)』『愛される女はここが違う!恋愛テクニック集(意訳)』などの文言が並んでおり、多紀は頭を抱えた。そう言えば昨日、大量の本を抱えて帰宅してきた主人を思い出し、中身はこれだったのかと悟る。
多紀は小さく息を吐いた後、バンッと机に手をつくと神奈にぐいと詰め寄った。
「神奈お嬢様、勉強熱心なのは感心いたしますが、知識ばかり吸収していてもダメですよ!」
多紀の言葉に、「そうかしら?」と首を傾げる神奈。すると、多紀はさらにぐいと近づいてきて「思い出してください、お嬢様!」と拳を強く握りしめた。




