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そう呟いた御幸に、「なるほどな」と過去を思い返す隆臣。幼少期からの付き合いである御幸の、一途すぎるほど一途な初恋を彼もまた、ずっと見守ってきた。
あまりに素っ気ない婚約者に別の女の子を紹介してやろうと、おせっかいを焼いたこともあったのだが、まるで眼中にないと言わんばかりに、この男は一人の令嬢だけを愛してきたのだ。これを純愛と言わずして、何をそう呼べるだろうか。
「まあでも俺は、時には自分の気持ちをさらけ出すことも必要だと思うけどな」
「我慢は精神衛生上よくないぞ」と続けた隆臣に、御幸は「そうかもしれないけど」と言葉を濁す。
凛と咲く美しい花のような婚約者に、すべてを曝け出してしまうことを躊躇う自分がまだ御幸の中にいた。
『ようやく貴女と心が通じ合っていると分かったんです。これからは容赦なく、行かせてもらいますよ?』
そんなことを言って彼女の前では余裕ぶっているけれど、本当は余裕など全くなくて。腕の中にいる美しい花を、手折ってしまわぬよう必死に加減をして過ごす日々である。
そんな自分を戒めるかのように、先日神奈の父親に遭遇したことを思い出し、御幸は苦笑を漏らした。
それにしても、たった数日顔を合わせないだけで恋しくなってしまう、この果てのない恋心は本当にやっかいだと、しみじみ思う。
「はあ……神奈さんに会いたい」
「……ホントにお前は、婚約者のことしか頭がないな」
机に突っ伏してぐったりとする親友に、隆臣は呆れたようにそう呟いて、炭酸の気泡が弾けるメロンソーダに添えられたバニラアイスを、ぱくりとひと口食べたのだった。
そんな二人を少し離れた座席から見つめる男がいた。だが、新聞越しに向けられた視線に気がつく二人が気づくことはなく、口元にニヤリと浮かんだ嫌らしい笑みを見た者は誰もいなかった。




