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「おい、御幸。随分と元気がないじゃないか」
頬杖をついてぼんやりと窓の外を見ていた芦屋御幸に、対面に座った男はくつくつと笑いながら、そう言った。
ジャズ音楽が流れる喫茶店の窓際。ゆったりと座れる一人掛けのソファ席に腰掛けている御幸は、窓から視線を戻して「そうかな」と返す。目の前の男――氷室隆臣は、そんな親友の様子を面白そうに観察していた。
肩よりも短いところで切り揃えられた髪に、切れ長の瞳、口元はにこりと弧を描いている。
先ほどから、ちらちらと女性店員や女性客が熱い視線を送っているのに気が付くたびに、にこりと麗しく微笑むような軟派な男は、御幸と幼少期からの付き合いである親友だった。
「この間、婚約者の神奈嬢とようやく両想いになったって喜んでたのに、どうしたって言うんだ」
「……両想いになれたことだけが、ゴールじゃないってことだよ」
そう言って、はあと大きなため息をついた御幸は、店主自慢のブラック珈琲に口をつけ、ごくりと喉を潤した。
何やら憂いげな美男子に、これまた周囲からは熱い眼差しが向けられていたのだが、当の本人は全く気が付く素振りはなく、その澄んだ瞳は手元のコーヒーカップを見つめている。
「積年の想いが通じたっていうのに、贅沢だねぇ」
「積年の想いだからこそ、だよ。僕がどれだけ、この胸の奥に秘めた爆発寸前の感情を抑えこむのに必死になったと思ってるんだ」
「それに関しては、ホントにすごいとしか言いようがないわ。俺だったら、とっくに手ぇ出してるぞ」
そんな発言をする隆臣に、白い目を向ける御幸。案外こういうところは生真面目な親友に、隆臣がくっくっと笑みを零せば「笑うなよ」と、視線を逸らして不貞腐れた調子で返される。
「……神奈さんのことは大事にしたいんだ。僕は自分の感情に任せて、そんな軽薄なことしないよ」




