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「まあ、デートやったら郊外にある植物園でも行ったらどない? お弁当作ってあげたら、御幸君も喜んでくれると思うわ」
「て、手作り弁当ですか……?!」
「お母さんも手伝うから、腕によりをかけた手料理で御幸君の胃袋もがっつり掴んだり」
「はい、頑張りますわ……っ!」
部屋に戻るという神奈を見送りながら、楽しげにそんな会話をする妻と娘の後ろ姿を一人の男が戸に隠れて、こっそりと見つめていた。桐生院家の現当主、桐生院玄瑞である。
仲睦まじい親子の背を見る目は鋭く光っていたが、恋バナに夢中の二人は一向にその視線に気づかない。そんな様子に、玄瑞はさぞ厳めしい顔をして怒っているかと思いきや――。
「わしの神奈が……っ! うう……っ!」
腕で両目を覆いながら、肩を震わせ泣いていた。その後ろでは、女中の多紀が「だ、旦那様……」と気まずそうに佇んでいる。
すると、玄瑞はぐるりと後ろを振り返り、瞳に涙を浮かべたまま「多紀、お前はどう思う?!」と詰め寄ってきた。
「ど、どうとは?」
「最近の神奈は、以前にも増してかわいさに磨きがかかっているとは思わんか?! 刀を振るう凛とした姿も勇ましくていいが、ここ数日は張り詰めていた空気が少し柔らかくなったというか! 妻の藤乃によく似た高嶺の花を思わせる美貌もさることながら、あんな魅力を振りまいて街を歩いていると思ったら変な男が近寄ってこないか、気が気で仕事にならないぞ、わしは!」
「はあ」
食い気味に同意を求めてくる玄瑞に、多紀は生返事をした。
強面の顔で迫ってくるご主人様だが、言っていることは「うちの娘めっちゃかわいくて困る」である。「ちゃんと仕事してください」とも思ったが、本人にとっては喫緊の重大問題らしい。




