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帝都の一等地に佇む広い庭付きの立派な日本家屋。それが、桐生院神奈の生家である。先代から代々受け継がれてきたこの屋敷は、退魔師を輩出する一門の中でも随一の豪華な造りになっており、桐生院家の隆興を現している。
庭には錦鯉が泳ぐ池があったり、四季折々の花が植栽されていたりと風情豊か。春になると庭に咲く梅の花を眺めながら、縁側で花見を楽しむのが桐生院家の恒例行事の一つだったりする。
神奈は母に玄瑞と帰宅することになった経緯を話し、「どうすればいいか」と相談することにした。
「どうするも、こうするも気にせんでええよ、そんなこと」
だが、藤乃はおかしそうに笑い、「気にしなくていい」と言うだけ。何が問題なのか?と言わんばかりである。
「で、ですが、お父様は常日頃から『桐生院家たるもの、周りの手本となる人間であれ』とおっしゃっております……! いくら婚約者とはいえ、街中で殿方と手を繋いで歩くなど、やはり不適切だったでしょうか」
変なところで真面目な娘に、藤乃はふと頬を緩める。それから手を伸ばして頭をそっと撫でてやると、「神奈、よお聞き」と黒曜石のように煌めく澄んだ瞳をまっすぐ見つめた。
「アンタも、もう立派な大人や。退魔師としての腕も確かで、仕事だってきっちりこなしとる。いずれは御幸君と結婚して、この家を出ることになるわけやから。いつまでも父親の言いなりに、ならんでええの」
「お母様……」
見た目は父の玄瑞同様に厳しそうに見える母だが、藤乃はいつだって神奈の味方でいてくれる、子ども想いの愛情深い人だった。
「それに好きな男と手ぇ繋いで街歩くくらい、ええやないの。時間だって言うほど遅ないし、あの人が過保護すぎるんよ。未来の旦那と仲がいいのは何よりやない」
母の言葉に神奈はふと口元を緩め、「はい」と応える。すると「そんなことより」と、ずいと神奈に詰め寄ってニヤニヤとした笑みを浮かべた藤乃。
「御幸君といつの間に、そんないい雰囲気になったん? お母さん、その話詳しく聞きたいわ」
いつになく弾んだ調子の母に、神奈は「実は」と口元に手を当てながら秘密を打ち明けるように、ことの顛末を話し始めた。
そんな親子の仲睦まじい背中を部屋の外から一人の男がじっと見つめていたのだが、話に夢中の神奈と藤乃が気がつくことはなかったのだった――。




