2
神奈が所属する帝都の退魔師組織「東雲」の隊舎は、帝の住まいである御所や、役所が集まる帝都の中心部にある。
主な仕事は市中見回りや、魔鬼の討伐、帝が住まう御所周辺の警護などなど。
魔鬼を祓うことができる特殊能力をもつ人間は、専門機関での訓練を受け、東雲の技術部が開発した「調伏刀」を使って任務に当たっている。帝都の街の安寧は、そんな特務機関によって守られているのだ。
「いや~、今日も働きましたね。今夜は上手い酒が飲めそうです」
「魔鬼との遭遇は、あの一件だけでしたけれど、事務仕事があんなにあるとは思いませんでしたわ」
「報告書の作成ひとつにも時間がかかりますからね。合間に技術錬磨の特訓もあったので、余計に疲れた気がします」
本日の業務を終えた二人は、東雲隊舎の正門まで並んで歩きながら、そんな雑談を繰り広げていた。
「ところで先輩はこれからどこか、でかける予定でも?」
「洋装なんて珍しいですね」と続けた後輩に、神奈は「ああ」とワンピースの裾を持つ。
黒の隊服から着替え、今は紺の膝下丈のワンピースを身に纏っている神奈。首元にリボンがあしらわれた、シンプルながらも上品な装いである。
「今日はこの後、芦屋様と会食の予定があるの」
神奈の返事に夏樹は「へえ」と口元を緩め、相変わらず表情の分かりにくい先輩退魔師の横顔を見た。
「デートですか~。仲がいいですよね、先輩と芦屋さんって」
すると、途端に表情が変わった神奈。
「べ、べ、別にそんなことないわよ……! ラブラブだなんて、先輩をからかうのらやめなさい!」
「……いや、『仲がいい』って言っただけですけど。意訳しないでもらえます?」
先輩の神奈が、御幸のこととなると急にポンコツになるのは、いつものことだった。普段はきりりとした表情を崩さず、凛としている先輩なのだが、婚約者の話題を振れば、分かりやすいほど表情が変わるのだ。
先日の霊力測定会には夏樹も出席しており、機械の不備があった件についての経緯は知っていた。様子のおかしかった先輩を夏樹も心配していたのだが、婚約者の御幸がすぐに後を追いかけていったことを思い出す。その時、どうやら二人の関係に進展があったらしく、ここ数日の神奈は機嫌がとてもよかった。
「この格好、変じゃないかしら? 髪も乱れていない?」
もうすぐ婚約者に会うとあって身だしなみを気にし始めた神奈に、夏樹は「大丈夫ですよ」と微笑みかける。
見た目の雰囲気から「怖い」「話しかけにくい」と言われることもある神奈だが、夏樹にとっては面倒見が良く優しい先輩だ。彼自身も、御幸とのことは秘かに応援している一人である。
「似合ってますよ、そのワンピース」
夏樹がそう言って笑いかければ、神奈は「なら、よかったですわ」とほっと胸を撫で下ろし、通りの角を曲がろうとした。――その時だった。
「僕の婚約者を口説くのはやめてくれないか、朝霞君」
そんな言葉と共に現れたのは、今まさに話題にあがっていた神奈の婚約者様、芦屋御幸その人だった。




